研究ニュース

レドックス刺激により多様な分子骨格の構築を実現機能性分子を構築する新規アプローチとして科学技術分野での応用性にも期待

【ポイント】

  • 芳香族(π電子系)化合物は様々な応用が期待され、多様性の獲得は次世代材料開発に繋がる。
  • レドックス刺激を用いた本手法は、分子構造と物性の多様化を実現する新たな戦略になる。
  • およそ一世紀にわたって単離例のなかった分子骨格の構築及び物性解明にも成功。

【概要】
北海道大学大学院理学研究院の石垣侑祐准教授及び同大学大学院総合化学院博士後期課程(研究当時)の張本尚氏(現在:分子科学研究所助教)らの研究グループは、レドックス反応を巧みに利用することで、従来のアプローチでは到達困難であった分子骨格を含む、複数の分子構造を作り分ける戦略を考案し、その有効性を実証しました。

複数の芳香環を含むπ電子系化合物は、特異な物性を示すことから機能材料分野において盛んに研究がなされてきました。分子骨格を適切にデザインすることで、その分子骨格に特有の物性(例えば、鮮やかな色調や可視-近赤外領域での発光)を示すことから、π電子系化合物は様々な分野で広く利用されています。一方、それらの分子骨格は、一つ一つ丁寧に作り込む必要があるため、新たな分子群の創出には多大な労力を要する場合が多く、分子骨格の多様性の創出、すなわち物性の多様化を実現可能なアプローチの開発が求められてきました。

研究グループは、レドックス活性なユニットを分子内の適切な箇所に配置することで、レドックス刺激によって複数の分子構造を与え得る分子をデザインしました。得られる分子構造を変化させるには、骨格そのものを作り直すことが一般的ですが、周辺に導入する置換基の立体的効果を利用することで、三つの分子骨格をそれぞれ創り出すことに成功しました。立体的に混雑した分子は作りにくいことが知られていますが、レドックス刺激で分子骨格の多様化を実現可能なため、従来の手法ではアクセス困難な化合物を得ることも可能です。実際に、三つのうちの一つは、およそ100年にわたって合成・単離例のなかった分子骨格であり、本手法の有効性を裏付けるものです。以上より、学術的価値のみならず、科学技術分野における応用展開が期待されます。

なお、本研究成果は、2025年5月8日(木)公開のNature Communications誌に掲載されました。

論文名:Diverse Redox-Mediated Transformations to Realize the Para-Quinoid, σ-Bond, and Ortho-Diphenoquinoid Forms(パラ-キノイド、σ結合、オルト-ジフェノキノイド構造の創出を実現する酸化還元刺激による多様な構造変換)
DOI: 10.1038/s41467-025-59317-w

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