3Dプリンターを活用した安価な材料合成ロボットの開発~材料合成プロセスの自動化~

【ポイント】
- 電気回路・組み込み・部品の印刷・制御ソフト開発まで完全自作した化学ロボットを開発。
- 設計図、3Dプリンター図面、ソフト、組み込み、電気回路図等をすべて公開。
- 開発した材料ロボットによる無機材料の合成に成功。
【概要】
北海道大学大学院理学研究院・総合イノベーション創発機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)の髙橋啓介教授、髙橋ローレン助教、クワハラ・ミカエル学術研究員、前田 理教授らの研究グループは、3Dプリンターを活用して完全自作可能な材料合成ロボット「FLUID」を開発しました。
これまで、研究グループは触媒インフォマティクスを活用し、人工知能による材料開発を実現してきました。しかし、触媒の合成や評価は依然として人が担っており、化学実験の完全自動化には至っていませんでした。一方、海外では化学合成ロボットの販売が始まっていますが、高額かつ汎用性の低さが導入の大きな障壁となっていました。そこで研究グループは、安価で誰もが手に入れられる汎用部品のみで構築できる材料合成ロボットの開発に取り組みました。大部分の部品を3Dプリンターで印刷し、ネジやモーターなど、特別な部品を使わずに組み立てられる設計を実現しました。汎用部品のみで構成する場合、精密な動作制御が技術的な課題でしたが、独自の機構設計と独自の制御ソフトウェアを開発することで、低コストながら高精度な操作を可能にしました。そのため、従来の高価なロボットと同等の機能を持ちながら、手軽に導入できる革新的な材料合成ロボットを開発することができました。今回開発したロボットを正確に制御する独自のソフトウェアは、直感的なインターフェースを備えており、専門知識がなくても簡単に操作できる点も特徴です。より多くの研究者や技術者がロボットを活用し、新しい材料の開発に貢献できることが期待されます。
本ロボットの最大の特徴は、その完全オープンソース化です。設計図や電気回路図、組み込みシステム、組み立て方法、3Dプリンターデザインファイル、ロボット制御ソフトウェアのソースコード、使用した部品のリストなどをすべて公開しました。産業界や研究機関のみならず、誰でも自由に利用・改良できる環境を整えました。さらに、開発したロボット「FLUID」を用いて、実際に材料合成を実施しました。その結果、材料ロボットによる共沈法を実施し、ニッケルとコバルトの酸化物を人の手を使わずに合成することに成功しました。本研究では、ロボットを正確に制御する独自のソフトウェアを開発し、溶液の供給速度や混合プロセスを綿密に調整できるようにしました。これにより、従来の高価な装置でも難しかった流体制御を実現し、均一な粒子サイズや組成を持つ酸化物の合成が可能となりました。この精密な流体制御技術は、より複雑な材料合成や化学反応開発にも応用できると期待されます。
本研究成果は、2025年4月9日(水)に、米国化学会(ACS Applied Engineering Materials)誌にてオンライン公開されました。また、ロボットの設計データや制御ソフトウェアは、GitHub(https://github.com/Materials-Informatics-Group)でGPL3.0ライセンスのもと、どなたでも無償でアクセス可能です。この成果は、低コストで自由度の高い材料合成ロボットの実現可能性を示すものであり、今後の材料開発の自動化の発展に大きく貢献すると期待されます。
論文名:Development of an Open-Source 3D-Printed Material Synthesis Robot FLUID: Hardware and Software Blueprints for Accessible Automation in Materials Science(3Dプリンターによる材料合成ロボット「FLUID」の開発)
DOI: 10.1021/acsaenm.5c00084
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