研究内容
どのようにして生物は常に一定量の「生命金属」を体内に保持しているのか?
生物は、鉄、銅、亜鉛、といった特定の遷移金属イオン「生命金属」を一定量、その体内に含んでいる。この「生命金属」は、生命維持に必要な酵素反応の活性中心として機能していることから、その不足や過剰は貧血や神経疾患、肝機能異常など、さまざまな病気につながる。我々は、このような「生命金属」が生体内でどのような仕組みで常に一定量存在しているのか、「生命金属」恒常性維持の制御機構を関連するタンパク質の構造、機能解析により明らかにするとともに、その制御破綻による発病との関連、さらには創薬や新規治療法への指針を得ることを試みている。
細胞内エネルギー産生機構を駆動する電子伝達機構の解明
我々が生命活動を営むにはエネルギーが必要であり、そのエネルギーは、酸素呼吸する生物ではミトコンドリアで作られるアデノシン三リン酸(ATP)によって主に賄われている。このATPの生産過程を駆動するにはタンパク質間で電子を伝達する過程が必須であり、その過程の制御機構の解明は生物のエネルギー生産機構の理解に必須であるばかりではなく、今後注目されるクリーンな生物エネルギー生産実現のためにも注目されている。我々はこのタンパク質間の電子伝達過程について、タンパク質の原子座標を決めることができる超高分解能多核多次元NMRを用いることで、電子伝達過程の分子機構解明とその人工的な制御を試みている。
病原菌の金属イオン獲得機構
病原菌は増殖するために様々な金属イオンを必要とし、その多くを宿主から獲得する。例えば、鉄イオンは血液中のヘモグロビンから補酵素であるヘムを抜き取り、それを分解することで獲得している。そのため、金属イオンの獲得機構を理解することは、病原菌からの新たな防御・医薬につながると考えられる。我々は、独自に開発した分光装置を利用することで、原子座標レベルでの病原菌の金属イオンの獲得機構を明らかにする研究を行っている。
研究室の特徴
生体中で重要な働きを担うタンパク質のしくみを物理化学的な手法を用い、解き明かすことで、分子構造に基づく創薬や治療法の開発、クリーンな機能性材料としての人工タンパク質の設計など、これからの実際に社会に役立つ新技術、新材料の開発につながる研究を目指している。