研究者情報

景山 義之

助教

KAGEYAMA Yoshiyuki

化学は、もっともっと面白くなる。

化学部門 物理化学分野

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研究テーマ

旧来の一個の分子の形や機能を追究する化学から離れて、個性ある種々の分子が集まった環境での分子の振る舞いを追究する化学を研究対象にしています。生命現象のようなダイナミックな現象が、そこから産まれます。

研究分野システムズ・ケミストリー, 超分子化学, 生体模倣化学, 基礎有機化学, 化学物理
キーワード自己組織化(散逸構造), 非線形現象, エネルギー変換, 触媒, 分子集団機能, 自律機能, ソフトマター, アクティブマター

研究紹介

私達の体の中では、いろいろな種類の分子が、それぞれの役割を担いながら働いています。この分子たちは、お互いを刺激し合うことで、一つの分子ではできなかった機能を生み出しています。このように「分子のネットワークを創ることで、生命体のような、極めて高度な機能を生み出すこと」が、私達の研究テーマです。これは、純粋無垢な理想的環境に分子をおくことで、分子の本質的性質を知ろうとしてきた正統派の化学研究の姿勢とは異なる研究スタイルです。

「極めて高度な機能を生み出す」ための基本的な戦略は、どう「ネットワーク」を創るか、にあります。私達は、化学反応が潜在的に有する「非線形性①」と、分子集積という「非線形性②」を掛け合わせることを基本戦略にしています。

これまでで最も理想的な成果は図1の研究です。他のグループで研究されている光で動く材料は、動かし続けるために、光を点滅させたり、光の色を変えたりしなくてはいけません。これに対して図1の結晶は、光を照射しつづけるだけで、繰り返し振動します。このことを「自律」といいます。仕組みを説明したものが図2です。当初、結晶の中で、光で形を変える分子が正反応します。この結果、結晶を構成する分子の組成が変化します。すると結晶の中で分子の並び方が変わります(相転移といいます)。新しく生じた結晶の中で、分子は逆反応を始めます。そうすると、結晶を構成する分子の組成が元へと戻っていくため、再度、結晶の相転移が起こり、元の状態へと戻ります。クリオネのように羽ばたく結晶の動画は、北海道大学からプレスリリースを行い、種々の言語に翻訳されて世界中で報道されました(図3)。

さて、非線形性①と非線形性②を掛け合わせるということをお話ししました。私は学生時代に有機反応化学を専門とし、非線形性①についての研究を行ってきました。また、北海道大学で仕事をするようになってから、非線形性②についての研究も積極的に行っています。例を図4に示します。このらせん状の分子集合体(写真の中では数十マイクロメートルの長さ)は、ニョコニョコと回転しながら長くなっていき、数日後には1センチメートル程度にまで伸びます。このような分子集合体が成長する過程においても、たくさんの分子が、各々特徴的な役割を果たしていることを、私達は明らかにしました。

たくさんの分子が集まった集合体は、とても複雑な働きをしています。私達は、この複雑な働きを、有機合成技術と、物理化学解析によって紐解いていきます。図5に示すようなハードな有機合成もたまに行いますし、また新しい解析方法の構築も試みます。私達の研究フィールドは、とても新しい領域です。チャレンジングな研究をしたい、幅広い視点から化学を見てみたい、化学に新たな価値を生み出したい、という方の参画をお待ちしています。

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図1 一定の強さの光を受けて、周期的な運動を行う結晶(実際に顕微鏡で観察した結果です)。
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図2 周期運動における、状態の変遷の模式図。ヒステリシスをもった相転移と、相転移前後での化学反応の進行方向の逆転が、自発的な周期運動を実現する仕組みになっている。
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図3 クリオネのように振る舞う結晶の動画は、Youtubeの北大チャネルを見てね。https://www.youtube.com/watch?v=M0epKeaS2_E
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図4 分子の自己集積に伴う諸々のダイナミクスも、我々の重要な研究対象です。写真は、螺旋状の集合体が複数のステップを介して伸長している様子の顕微鏡像です。
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図5 研究の目的達成のために、ちょっとハードな有機合成も行います。

代表的な研究業績

Robust Dynamics of Synthetic Molecular Systems as A Consequence of Broken Symmetry,
Y. Kageyama, Symmetry, 2020, 12, 1688. (招待論文:研究の背景学理を説明
Self-Propulsion of a Light-Powered Microscopic Crystalline Flapper in Water,
K. Obara, Y. Kageyama, S. Takeda, Small, 2022, 18, 2105302. (新聞報道されました
Dissipative and Autonomous Square-Wave Self-Oscillation of a Macroscopic Hybrid Self-Assembly under Continuous Light Irradiation,
T. Ikegami, Y. Kageyama, K. Obara, S. Takeda, Angew. Chem. Int. Ed., 2016, 55, 8239–8243. (Hot Article, Press-Released Article)
Light-Powered Self-Sustainable Macroscopic Motion for the Active Locomotion of Materials,
Y. Kageyama, T. Ikegami, S. Satonaga, K. Obara, H. Sato, S. Takeda, Chem. Eur. J., 2020, 26, 10759–10768. (新聞報道されました
Autocatalytic membrane-amplification on a pre-existing vesicular surface,
H. Takahashi, Y. Kageyama, K. Kurihara, K. Takakura, S. Murata, T. Sugawara, Chem. Commun. 2010, 46, 8791–8793.
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関連産業分野

化学, 薬学
学位博士(学術)
学歴・職歴2001年 東京大学教養学部基礎科学科 卒業
2003年 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 修士課程修了
2006年 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 博士課程修了
2006-2007年 東京大学研究拠点形成特任研究員
2007-2009年 東京理科大学薬学部ポストドクトラル研究員
2009年- 現職
2013-2017年 科学技術振興機構さきがけ研究員
所属学会日本化学会
プロジェクト文部科学省新学術領域研究「発動分子科学」
北海道大学 創成特定研究事業「スケール横断的なアクティブマターの動作原理解明とそれに基づく新物質の創出」
科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業さきがけ「分子技術と新機能創出」
居室理学部7号館 7-410号室