研究内容
オイル高吸収性高分子の分子設計
水を吸収して、大きく膨れる材料は「高吸水性高分子」としてよく知られています。しかしながら、このポリマーは水以外の液体ではほとんど膨らむことができません。そこで私たちは石油や有機溶媒など様々な液体に対して、イオンの力を利用して、大きく膨らみ、液体を吸収する材料の開発に取り組んでいます。タンカーからの原油の流出事故などに有効なオイルフェンスや有害な揮発性有機化合物(VOC)や排出油の回収などの環境問題の解決に取り組んでいます。
Metal Organic Frameworks の架橋による高分子ゲルの合成と機能化
金属イオンと配位子によって構築される一片がナノサイズ(1×10−9m)のジャングルジム構造(Metal-Organic Framework; MOF)を用いて、配位子であるモノマー(単量体)を三次元的に化学結合で連結して、高分子のネットワークを合成することに成功しました。これは三次元的に規則された高分子の網目(高分子ゲル)を合成する唯一の手法です。配位子であるモノマーの間隔や方位などを変化させることで、一方向にのみ大きく膨れるゲルなどが合成できています。また原料となるMOFの形・大きさを制御することで、生成する高分子ゲルの形・大きさを制御することにも成功しています。ナノからミリの多面体を合成でき、新しい機能への展開が期待できます。
高分子の相転移の制御による刺激応答性システムの開発
刺激応答性高分子は刺激に応答して色や形が変化する材料です。私たちは温度の上昇により、溶解度が急に低くなり、溶液が不溶となり、温度の降下に伴い、再溶解する高分子(LCST型温度応答性高分子)の分子設計に取り組んでいます。特に、高分子鎖の官能基間の相互作用を部分的に切断するようなeffectorを導入し、溶媒-高分子-effectorの三成分系とすることを世界で初めて提案しました。溶媒・高分子・effectorの分子間相互作用を制御することで、様々な溶媒や温度でLCST型の温度応答性を実現することに成功しました。これらを利用することで、複雑な温度応答性を持つ高分子や化学反応や光などに応答する刺激応答性高分子の構築に成功し、様々な応用展開が期待できます。
生体分子モーターを用いた動く材料”アクティブマター”の創出
我々の細胞の中には、現代の機械化技術では達成困難な高性能な分子機械が存在します。この分子機械は生体分子モーターと呼ばれ、ATPを燃料とし、μmのタンパク質集合体などを動かすことができます。私たちはこれまでこのソフトな動力システムを利用して自走する分子機械の運動を力学的な刺激を加えることで、速度や運動方向を制御することに成功しました。分子機械の外部制御です。またこれらは二次元の平面上を走り回る物質と考えられます。従来の物質は自発的に動くことはありません。したがって、この材料は“動く”材料、すなわち「アクティブマター」として、新しい材料として期待が持たれています。
分子群ロボットの創製
生体分子モーターは単独でも物質輸送などの機能を有しますが、その真価は生体分子モーターが集団で機能する際に発揮されます。例えば、我々の筋肉は生体分子モーターが階層的に組み上げられることで、実際の力を産み出します。私たちは最近生体分子モーターによって作られた自走する分子機械とセンサーやプロセッサー機能を持つ核酸(DNA)と組み合わせることにより、分子機械のアップグレードを行い、外部刺激に応答し、群れを形成する世界初の分子群ロボットの構築に成功しました。一つの分子機械だけでは実現しない様々な機能を実現したいと考えています。
研究室の特徴
複数の化合物が混ざったものを混合物と呼びますが、化学の中ではこの言葉は良いものではありません。なぜなら、純粋な化合物の合成や分析に焦点があてられてきたからです。このような考え方に対して、わたしたちは数種ないしは十数種類の化合物からなる混合物を作り、それぞれの単独ではなし得ない機能・構造・反応を作り出すことを目指し研究を行っています。究極の混合物として生物の基礎となる細胞を挙げることができます。細胞は細胞膜によって仕切られたμmのサイズの器であり、その中で、その構成成分は高度に制御され、「生きている状態」を作りあげています。40億年の進化の結果である生物が作り出す豊かな機能・情報をもつ混合物には及びませんが、有機化学・高分子化学・物理化学・非平衡熱力学などの知識を総動員して、「複雑系」にチャレンジし、生命の本質に迫ろうと思っています。