研究内容
光化学反応の理論化学
分子に紫外光を照射すると、分子中の電子状態ががらりと変わり、分子構造の変化を引き起こします。光照射前に比べて結合様式や立体構造が変化して別の分子に変化する化学過程を光化学反応と呼びます。速い反応であれば1兆分の1秒で反応が完結します。光化学反応は、電子状態によって決まるポテンシャルエネルギー曲面の形状により支配され、発光の有無や励起寿命の長さ、量子収率などが決まります。現代理論化学はコンピュータを用いた計算によりこれらの量を算出し、実験では観ることのできない光化学反応の機構を解明し、予測することができます。
計算化学とデータ科学を使った物質の構造・性質・反応の予測
すべての物質は、電子と原子核という非常に小さい物質から成り立っています。このような小さい物質の運動はシュレーディンガー方程式という基礎方程式に従うことがすでに分かっているので、これを計算機で解けば物質のあらゆる性質を予測することができます。しかし、方程式をそのまま計算できるのは、数原子までに限られています。私たちは、巨大な分子を取り扱うことのできる先進的な計算手法の開発に加えて、「人工知能」に代表されるデータ科学の手法も駆使することにより、非常に多くのプロセスからなる触媒反応などの解明や性能予測に挑戦しています。
ナノ物質系の理論・計算科学
金属などを小さくすると新しい性質が発現することが知られており、大きさが100nm程度以下になった粒子をナノ粒子と呼びます。例えば金は化学的に非常に安定ですが、ナノ粒子になるとCO酸化反応に対する触媒活性を示します。さらに、光を照射された金ナノ粒子の表面にはプラズモンと呼ばれる電子の集団運動が起こり、光を閉じ込めることができます。物質と同様に光も小さい領域に閉じ込めることで新たな性質を持つようになります。このようなナノ領域における新しい物質と光がどのような性質を持つのか、また両者がどのように相互作用するのかを量子力学と電磁気学に基づいた理論的枠組と計算手法を独自に開発しながら、研究を進めています。
研究室の特徴
研究室では実験はいっさい行わず、日々コンピュータに向かっています。研究室に配属した当初は理論化学やプログラミングに苦手意識を持っていた学生も、1年もたてば量子化学への違和感がなくなり、自然にコンピュータースキルが身につきます。量子化学計算とデータ科学を身に着けた人材は、化学系・材料系の企業から引く手あまたです。研究テーマは一人一人違いますが、世界で初めての新しい理論を考えたり、プログラム開発に携わったり、実験系の研究室の友人に計算化学の素晴らしさをアピールしたりと、有意義な研究室生活が待っています。