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豪雨なのに,雷が頻繁に鳴ったり鳴らなかったりするのはなぜ?豪雨に伴う雷頻度の違いを数値シミュレーション再現することに初めて成功

【ポイント】

  • 「富岳」を用いて雷を直接シミュレートし,豪雨に伴う雷頻度の再現に成功。
  • 日本で発生した二つの豪雨の雷頻度の違いを明らかに。
  • 将来、「雷予報」を含めた天気予報へ発展することを期待。

【図の説明】
気象雷モデルで再現された雷頻度:(左上)2017年九州北部雨豪雨、(左下)2018年西日本豪雨
気象庁が運用する雷観測網LIDENを用いて観測された雷頻度:(右上)2017年九州北部豪雨、(右下)2018年西日本豪雨

2017年九州北部豪雨と2018年西日本豪雨は共に豪雨をもたらしたが,前者は雷が高頻度で鳴り,後者は雷頻度が少なかった。気象雷モデルはこの特徴を再現することに成功した(当該論文の図4より引用)。

【概要】
北海道大学大学院 理学研究院の佐藤陽祐特任准教授らの研究グループは,気象庁気象研究所の林修吾主任研究官,橋本明弘主任研究官と共同で,日本で発生した二つの豪雨に伴う雷頻度の違いを数値シミュレーションで再現することに初めて成功し,二つの豪雨の雷頻度の違いをもたらす原因を明らかにしました。

これまでのスーパーコンピュータを用いた数値シミュレーションでは,雷の頻度や事例ごとに異なる雷の特性について調べることは困難で,豪雨という状況が同じでも,雷が鳴る頻度が異なる理由は解明されていませんでした。

研究グループは,独自に開発した雷を直接計算する気象モデル「気象雷モデル」とスーパーコンピュータ「富岳」を用いて,雷を直接扱った数値シミュレーションを行いました。このシミュレーションによって,日本で発生した二つの豪雨(2017年九州北部豪雨,2018年西日本豪雨)と豪雨に伴って起こる雷を再現することに成功し,この二つの豪雨で雷頻度が大きく異なる原因が,豪雨をもたらした積乱雲の背の高さの違いと,それに伴って雲内の霰の量と霰が分布する高さが異なっていることに起因することを明らかにしました。このような数値シミュレーションは,世界トップの計算能力を誇る「富岳」を使うことで初めて可能になった計算です。

現在の天気予報では,雷を直接扱った計算は行われていませんが,近い将来に雷予報を含めた天気予報へと広がる足掛かりとなり,雷予測の精度向上に貢献することが期待されます。

なお,本研究成果は,2021年8月31日(火)公開のAtmospheric Science Letter誌に掲載されました。

詳細はプレスリリースをご覧ください。