研究ニュース

電気化学的な刺激により分子構造を巧みに制御有機半導体などに利用可能な新規アセン構築法として期待

【ポイント】

  • 多電子酸化によってペンタセン骨格を一挙に構築することに成功。
  • 還元は段階的に進行し,ペンタセン→アントラセン→ベンゼン骨格が形成されることを実証。
  • 酸化状態では近赤外(NIR)領域に吸収をもつことから,様々な分野への応用を期待。

【概要】

北海道大学大学院理学研究院の石垣侑祐助教らの研究グループは,電気化学的な刺激を用いることで,アセン骨格の一挙構築と段階的な構造制御に成功しました。

研究グループは,折れ曲がった構造を示すキノジメタン骨格に着目し,分子内に二つ導入したビスキノジメタン誘導体を新たに設計しました。ベンゼン環は通常平面構造をとりますが,一つ飛ばしに配置されているため,中性状態では分子全体がジグザグ型に折れ曲がった構造をとっています。一方,四電子酸化を行うことで,五枚のベンゼン環が直線状につながったペンタセン([5]アセン)骨格が形成されることを明らかにしました。また,還元側は段階的に進行し,中間体としてアントラセン([3]アセン)骨格をもつL字型の化合物を経由して,元のジグザグ型構造へと戻ることを見出しました。ここで,酸化状態では,生体透過性の観点で注目されている近赤外領域(~1,400nm)に及ぶ吸収を示します。

これらの酸化還元過程について,紫外可視近赤外吸収(UV-vis-NIR)スペクトルによって明らかにしただけでなく,X線結晶構造解析により直接的に分子構造を決定することに成功しました。本手法は,有機半導体などに利用可能なアセン誘導体を構築する新たなアプローチを提供することに加えて,酸化還元により分子構造を可逆に制御可能なことから新規材料への応用も期待されます。

本研究成果は,化学系トップジャーナルの一つであるJournal of the American Chemical Society(米国化学会)で2021年2月26日(金)にオンライン公開されました。

詳細はプレスリリースをご覧ください。