メスだけで増えるカイミジンコの新種を発見
【ポイント】
- 沖縄本島のマングローブ林脇の汽水環境から新種のカイミジンコを発見。
- 飼育実験の結果,メスだけで増える種であることを解明。
- DNA解析の結果,生殖様式に影響を与える細胞内共生細菌カルディニウムの存在を示唆。
【概要】
北海道大学大学院理学研究院の角井敬知講師,同理学院修士課程の宗像みずほ氏,葛西臨海水族園の田中隼人動物解説員らの研究グループは,沖縄本島から新種のカイミジンコを発見しました。
近年,持続可能な開発目標(SDGs)に関連して,生物多様性の保全の必要性が一層強く叫ばれるようになりました。しかし,保全すべき対象,つまり地球上にどのような生物が存在しているのかについては,特に小型の生物において理解が非常に遅れている現状にあります。
カイミジンコは,二枚貝のように体の左右に2枚の殻を持った小さな甲殻類(エビなどの仲間)の一群です。海に棲む種も多く知られますが,淡水環境や,河口域などの淡水と海水の混ざり合う汽水環境に棲む種も存在します。
今回,沖縄本島のマングローブ林脇の汽水環境から採集したカイミジンコの1種について詳細な形態観察を行ったところ,未知の種であることが明らかになったため,新種Heterocypris(ヘテロキプリス) spadix(スパディクス)(和名:ヤキメイボカイミジンコ)として報告しました。本種については形態観察に加え飼育実験とDNA解析も実施し,メスしか確認されないこと,メスだけで卵を生み,その卵が成体に至ること,本種の細胞には宿主の生殖様式に影響を与えることで知られる細胞内共生細菌カルディニウムが存在すると考えられることなどを明らかにしました。
生態系ではヒトを含めたあらゆる生物が関連しあって存在していることを考えると,サイズの大小やヒトの生活との関わりの強さに関わらず,未知の生物に名づけ,報告していくことは非常に重要です。これからも一歩ずつ着実に記載分類学的研究を推し進めていくことが強く望まれます。
なお,本研究成果は,2021年2月25日(木)公開のZoological Science誌にオンライン公開されました。
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