研究者情報

角井 敬知

講師

KAKUI Keiichi

無脊椎動物の多様性:名前から生き様まで

生物科学部門 多様性生物学分野

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研究テーマ

タナイス目甲殻類を主たる対象とした系統分類学と生物学

研究分野動物系統分類学, 生殖生物学, 形態学, 動物学
キーワード海産無脊椎動物, 節足動物, 甲殻類, タナイス, ベントス, 記載分類, 新種, 分子系統解析, 生殖, 性表現, 形態, 生活史, 進化

研究紹介

2010年に発表された研究(Fujikura et al. 2010: PLoS ONE 5)によると、日本近海からはこれまでに2万5千種を超える「名前の付いた」動物が報告されている一方、まだ「名前の付いていない」動物(未記載種)はその4倍近く生息しているだろうといわれています。また、2003年から2020年の間に日本の排他的経済水域から見つかったエビやタコ、クラゲなどの無脊椎動物の新種数を調べた研究(Nakano et al. 2022: Zoological Science 31)は、計1511新種、つまり年平均84新種が報告され続けている実態を明らかにしています。つまり日本近海の生物多様性については、そもそもどんな種が生息しているのかを調べる段階にも、大きな研究の余地が残されていると言えます。

私はタナイス目という体長数ミリ程度の水生甲殻類の一群を研究対象としています。主に行っているのは、未記載種に名前を付けていく記載分類学的研究と、タナイス同士の類縁関係と進化史を明らかにする系統学的研究ですが、全ての研究は現象の記載から始まる、現象の「価値」は記載時点では判断できない、一般に知名度の低い動物の現象の記載は当該動物群を対象とする分類学者の責務であるという考えから、飼育実験や各種形態観察手法を導入して、タナイスに関わるあらゆる現象の記載に取り組んでいます。

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様々なタナイス類
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世界3例目となるタナイスに寄生するカイアシ類(甲殻類;矢印)
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エビ・カニの仲間としては世界初となる自家受精(自身の精子と卵を受精させる)が可能だと分かったタナイスの一種
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北海道沖からアラスカ沖までという広い分布を示すことが明らかとなった深海性タナイスの一種(Kakui et al. 2020参照)
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指導学生と新種記載したタナイスの一種(Okamoto et al. 2020参照).カイコの糸タンパク質様タンパク質とトビケラの糸タンパク質様タンパク質を主要構成要素とする親水性の糸を脚先から分泌し,それを用いて管状の巣を作る(Kakui et al. 2021参照)
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ヤドカリのように巻き貝殻を背負って生活するタナイスの一種(Kakui 2019参照).
殻の引っ越し動画をhttps://doi.org/10.6084/m9.figshare.7916288から見ることができる

代表的な研究業績

Kakui K, Hiruta C (2022) Description of a new Hamatipeda species, with an 18S molecular phylogeny (Crustacea: Tanaidacea: Typhlotanaidae). Zoological Science 39: 140–146.
Kakui K, Fleming JF, Mori M, Fujiwara Y, Arakawa K (2021) Comprehensive transcriptome sequencing of Tanaidacea with proteomic evidences for their silk. Genome Biology and Evolution 13: evab281.
Kakui K, Nomaki H, Komatsu H, Fujiwara Y (2020) Unexpected low genetic differentiation between Japan and Bering Sea populations of a deep-sea benthic crustacean lacking a planktonic larval stage (Peracarida: Tanaidacea). Biological Journal of the Linnean Society 131: 566–574.
Okamoto N, Oya Y, Kakui K (2020) A new species of Zeuxo (Crustacea: Peracarida: Tanaidacea) from Japan, with remarks on carapace pigmentation as a potentially useful taxonomic character. Marine Biology Research 16: 411–422.
Kakui K (2019) Shell-exchange behavior in a hermit-crab-like tanaidacean (Crustacea: Malacostraca). Zoological Science 36: 468–470.
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学位博士(理学)
居室理学部5号館 5-512号室

生物科学部門 多様性生物学分野

角井 敬知

講師

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研究を通して叶えたい夢は何ですか?

私の主たる研究対象であるタナイスを、一般の方々から研究者の方々まで、よく(ほどほどに?)知られた生き物にしたいなと思いながら研究を進めています。タナイスは多くの種が体長数ミリ程度と小さくかつ海に住んでいるため、あらゆる層の方々にほとんど知られていませんが、なかなかかわいいですし、海中で糸を紡ぐ種がいたり、ヤドカリのように巻貝殻を背負って生活する種がいたり、性転換する種がいたりと、研究対象としてもとても面白い生き物です。そんな素敵ながらもあまり知られていないタナイスについて、様々な側面から研究・成果発表を行うことで知名度向上に努めています。なお「タイナス」と覚えて下さる方が少なくありませんが、正しくは「タナイス」ですので、よろしくお願い致します。

様々なタナイス。左から順に、海中で糸を紡ぐ2種、巻貝殻を背負って生活する種、性転換する種(糸を紡ぐ種でもある)。スケールバーは0.5 mm。
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研究者になったきっかけは何ですか?

どの段階から研究者と呼ぶのかは人によって異なる気がしますが、長く研究を続けてみようかなと思ったのは、博士後期課程2年の時だったと思います。同課程の修了が現実味を帯びてきたその頃にふと、このまま研究をやめるといつか「あれもやっとけばよかった」と後悔しそうだな、もう少し続けてみようかなと思ったことがあり、それが研究者としての人生を意識し始めたきっかけのような気がします。その後のポスドクの時期に、博士課程までに取り組んでいた系統分類学以外のテーマにも手を広げたことで、現在の雑食な(?)研究スタイルが形作られました。マイナーな生き物の基礎生物学を主軸にしつつ、研究者として研究を続けてこられたのは、幸運に恵まれた部分が少なくないと思います。

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得意なこと、大好きなこと、趣味、日課を教えてください。

調査の過程で得られた生き物の写真を撮るのが好きです。きれいな写真が撮れたらうれしくなりますし、論文に使えるものならば早く公表したいと原稿を書くモチベーションが高まります。また私の研究室では学生さんたちが各自研究したい生き物を選ぶので、タナイスではない生き物の研究に携わることになるのですが、そういったタナイス以外の生き物について調べるのは(もちろんタナイスについて調べるのも)楽しいです。生き物を飼うのも好きだと思います。素朴な飼育実験により色々と驚く発見に出会えました。一人でどこかに調査に行き、その土地のものをいただくのも好きです。音楽を聴いたり、家族と出かけたりするのも、私の人生にとって欠かせないことと言えます。

これまでに出会った様々な生き物