重力応答と光合成・成長は同じ遺伝子「ISSUNBOSHI1」で制御されていた〜水中から陸上へ、5億年前のコケ植物の挑戦を支えたAP2/ERF転写因子~

【ポイント】
- 植物が 5 億年前に上陸したとき直面した試練の中に、体にかかる重力の増加がある。最初の陸上植 物群であるコケ植物は、重力を増加させると、背丈は低くなるが光合成は活発になり、植物体数は 増えることが分かった。
- 重力増加への適応の鍵となる AP2/ERF 転写因子を初めて明らかにした。それを「ISSUNBOSHI1 (一寸法師 1)」と名付け、その働きを制御することで、通常重力下でも光合成能力を高め植物体数 を増やすことに成功した。
- 本研究の成果は、光合成能力が高く収穫量が多い植物の開発につながる可能性がある。さらに将 来、重力環境が地球とは異なる宇宙での農業生産に役に立つことが期待される。
【概要】
植物が進化過程で経験した最大の環境変化の1つに、重力の増加があります。水中から陸上に進化し たときに、植物は浮力を失い、自身の体にかかる重さに耐える必要が生じました。しかし、こうした重 力の変化が、光合成をはじめとする生理的な仕組みや成長をどのように変えるのか、またどのような遺 伝的仕組みが関与しているのかは、これまで明らかになっていませんでした。
京都工芸繊維大学応用生物学系 半場教授、北海道大学大学院理学研究院 藤田教授らは、北島准教 授(京都工芸繊維大学)、蒲池准教授・唐原教授(富山大学)、久米教授(九州大学)、坂田教授・篠澤 助教(東京農業大学)、小野田教授(京都大学)らとの共同研究により、モデルコケ植物であるヒメツ リガネゴケを用い、地球の 6 倍と 10 倍の重力環境での栽培実験を行いました。その結果、重力の増加 により植物の丈は短縮する一方で、植物体数と葉緑体のサイズは増加し、光合成が活発になることが分 かりました。さらに、これらの反応には、AP2/ERF 転写因子をコードしている遺伝子群が深く関与し ており、特に「ISSUNBOSHI1(一寸法師 1)」と名付けた、たった1つの転写因子を操作することで、 重力に対する応答を人工的に再現できることを発見しました。この成果は、植物が陸上環境に適応して 進化してきた過程における、重要な遺伝的メカニズムの存在を示すものです。
【論文情報】
雑誌名:Science Advances
論文タイトル:First contact with greater gravity: Early land plants adapted via enhanced photosynthesis mediated by AP2/ERF transcription factors
著者:Yuko T. Hanba, Thi Huong Do, Kaori Takemura, Sakihito Kitajima, Alisa Vyacheslavova, Miyu Takata, Marcel Pascal Beier, Maki Yokoi, Akihisa Shinozawa, Ayuko Maeda, Yutaro Yasui, Naoya Sakaguchi, Ryuji Kameishi, Rina Watanabe, Souma Okugawa, Ryota Ozaki, Seika Hirai, Hiroyuki Kamachi, Atsushi Kume, Ichirou Karahara, Yoichi Sakata, Yusuke Onoda, Tomomichi Fujita
DOI:10.1126/sciadv.ado8664
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