金沢市の高校で捉えた放射線バーストで雷発生の瞬間に迫る
【ポイント】
- 2018年1月10日に石川県金沢市の市街地において、雷放電での原子核反応に由来する 1秒未満の強烈な「ショートバースト」と呼ばれる現象の放射線観測に成功した。
- このショートバーストの直前に、1分間にわたって雷雲から到来する放射線である「ロングバースト」も観測した。ロングバーストとショートバーストが引き続いて発生する現象の観測は世界初である。ロングバーストは雷放電の前駆現象として働き、ショートバーストや雷放電そのものの引き金を引いた可能性がある。
- 研究チームは若手研究者が中心となり、世界的にも珍しい日本海沿岸の冬季雷に着目し、石川県内の高校や企業などと協力して観測網を整備しており、今後も拡大予定である。
【概要】
東京大学大学院理学系研究科 和田有希 大学院生 / 理化学研究所 研修生、京都大学白眉センター 榎戸輝揚 特定准教授らの共同研究グループ(※)は、冬の雷活動によって発生した2種類の放射線バーストを、石川県金沢市の複数の高校で同時観測することに成功し、雷発生の前兆現象となった可能性を示しました。
研究グループは日本海沿岸部で発生する特徴的な冬の雷に注目して、放射線や電波帯での雷観測を行っており、2017年には雷放電によって大気中で原子核反応が起きる現象を解明しています。
本研究では2018年1月10日に、石川県金沢市の上空を通過中の雷雲から1分間ほど発せられる微弱な「ロングバースト」と呼ばれる放射線バーストを観測しました。さらにそのロングバーストを観測している途中に雷放電が発生してロングバーストが消失し、続いて原子核反応に由来する1秒未満の短く明るい「ショートバースト」を観測しました。この継続時間の異なる2種類の放射線バーストの関係は未解明でしたが、今回の観測ではロングバーストが消失したと同時に、ショートバーストと雷放電が発生しており、ロングバーストがショートバーストや雷放電そのものの発生を促進した可能性を指摘しました。
本研究は金沢大学附属高等学校・金沢泉丘高等学校をはじめ石川県内の高校、大学、企業、自治体、富山県の自治体の協力で行われ、また日本初の学術系クラウドファンディングサイトacademistで一般市民から募った研究資金にもサポートされたことから、高校生や一般市民を巻き込んだ研究プロジェクトとなっています。
論文は2019年6月26日 午前2時(日本時間)、英国Springer Nature社のオープンアクセス誌「 Communications Physics 」にオンライン掲載されました。
※共同研究グループ:
本共同研究には中澤知洋(名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構 准教授)、中村佳敬(神戸市立工業高等専門学校電気工学科 准教授)、森本健志(近畿大学理工学部 教授)、佐藤光輝(北海道大学大学院理学研究院 講師)、米德大輔(金沢大学理工研究域 教授)、澤野達哉(同 博士研究員)、酒井英男(富山大学 名誉教授)、鴨川仁(静岡県立大学グローバル地域センター 特任准教授)、牛尾知雄(首都大学東京システムデザイン学部 教授)、牧島一夫(東京大学 名誉教授 / 東京大学 Kavli IPMU 客員上級科学研究員)、湯浅孝行(民間企業勤務)、古田禄大(日本原子力研究開発機構福島研究開発部門 研究員)、土屋晴文(同原子力科学研究部門 研究副主幹)らが参加しています。