研究ニュース

イカ類は1億年前に既に誕生し爆発的に多様化していた古生物学を根本から変革するデジタル化石マイニング技術

【ポイント】

  • 化石をフルカラーで無差別かつ完全な形のままデジタルに取り出す手法を発明。
  • 産業用CTスキャンの16億倍以上の情報量で化石の発見確率を1万倍に向上。
  • 最古の記録を含む40種のイカ類化石を発見し、イカ類が1億年前に既に多様化していたことを解明。

【概要】
北海道大学大学院理学研究院の池上 森学術研究員、伊庭靖弘准教授、高輝度光科学研究センターの竹田裕介研究員、ルール大学のヨーク・ムッターローゼ教授は、岩石中の全ての化石を完全な形で取り出す手法を開発し、約1億~7,000万年前(白亜紀後期)のイカ類化石を大量に発見・分類することで、その個体数や多様性の変動を解明しました。

イカ類は、無脊椎動物中で最も高い身体能力と爬虫類に匹敵する巨大脳をもつ、特異な進化を遂げた生物です。これにより現在のイカ類は海洋全域で繁栄し、生態系や漁業を支える中核となっています。しかし、骨や殻を持たない彼らはほとんど化石として保存されないため、いつ誕生しどのように進化してきたのかは全く知られていません。このため、過去の海洋生態系の議論においてイカ類はほぼいないものと評価されてきました。

本研究では、北海道大学伊庭研究室が開発したデジタル化石マイニング技術を用いて、これまで1個しか知られていなかったイカ類化石を263個発見しました。この発見により、大量のイカ類化石がこれまでmmスケールの微小化石として岩石中に隠れていたことが明らかになりました。これはすなわち、従来の古生物学手法の技術的限界が化石の発見を妨げ、生命進化史の解読を困難にしていたことを意味します。

研究の結果、現生種に非常に近縁なものを含む40種が発見され、うち39種が新種でした。各種の年代分布からは、イカ類が約1億年前の白亜紀前期/後期境界付近で誕生し、その後700万年の間に爆発的に多様化したことが明らかになりました。また、同じ岩石中に含まれる化石の数とサイズの比較から、イカ類が同時代のアンモナイトや魚類を超える、遊泳性生物中で最大の生物量をもっていたことが示されました。白亜紀の海は、従来の定説に反して“イカだらけの海”だったことが明らかになりました。

なお、本研究成果は、日本時間2025年6月27日(金)公開のScience誌にオンライン掲載されました。また、本研究については、6月28日(土)に北海道大学で開催される日本古生物学会の特別講演「Digital fossil-mining: 次世代イメージング技術による生命化石探査法の革新」にて発表されます。

論文名: Origin and radiation of squids revealed by digital fossil-mining(デジタル化石マイニング が解明したイカ類の起源と放散)
著者名: 池上 森1、竹田裕介2、Jörg Mutterlose3、伊庭靖弘11北海道大学大学院理学研究院、 2高輝度光科学研究センター、3ルール大学)
雑誌名Science
DOI10.1126/science.adu6248
公表日:2025年6月27日(金)(オンライン公開)

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