研究ニュース

環境化学物質が鳥類の生殖細胞を減少させる危険性を発見鳥類を保全する総合毒性評価への貢献に期待

【ポイント】

  • ニホンウズラの雌雄の生殖細胞を区別するマーカー開発に成功。
  • ジエチルスチルベストロールの卵黄内暴露は、オスの始原生殖細胞を減少させることを発見。
  • 生殖細胞に及ぼす環境ホルモンの総合的な毒性評価に貢献。

【概要】
北海道大学大学院理学研究院の水島秀成助教、黒岩麻里教授の研究グループは、ジエチルスチルベストロールと呼ばれる人工合成女性ホルモンの一種をニホンウズラの卵に投与すると、オスの生殖細胞が減少することを発見しました。

鳥類の始原生殖細胞(PGC、将来精子や卵子となる細胞)は、発生初期の胚に出現し、胚発生の進行に伴い形成される血管中を移動することで、将来精巣あるいは卵巣になる生殖腺という器官にたどり着きます。ニホンウズラの卵に、女性ホルモン様作用が報告されている化学物質ジエチルスチルベストロールを投与し、血管を移動するPGCの数をカウントしたところ、オスでは5分の1に減少しており、細胞増殖の指標となるタンパク質の発現も有意に減少していることが分かりました。一方、メスのPGCでは毒性効果は一切見られませんでした。また、生殖腺に移動できるPGC数が減少することで、後に精子となる生殖腺内の生殖細胞が減少することが分かりました。つまり、この化学物質の影響を受けたオスの鳥は、精子の数が少なくなり、不妊となる可能性が示唆されました。

ジエチルスチルベストロールは、切迫早産や前立腺癌等の治療薬としてヒトに使用されてきました。現在では、その使用は禁止されていますが、内分泌撹乱作用をもつその他類似の合成ホルモンが、今なお野生生物等に深刻な影響を及ぼしています。このような化学物質の毒性評価は、従来から魚類や哺乳類を中心に行われてきましたが、鳥類を対象とした毒性評価研究は例が少ないのが現状であることから、本研究成果は大変有用なものです。

さらに、今回の鳥類を用いた研究成果から、少なくとも鳥類のPGCには生まれ持っての性差が存在することが見えてきました。合成ホルモンの多くには、魚類や哺乳類において、オスの精巣を卵巣に性転換するという作用が知られています。そして、このような生殖腺の性転換の副作用として、PGCの性にも影響を及ぼすことが知られています。

つまり、化学物質がPGCに対して直接的な影響を与えているのか、あるいは化学物質が体細胞を性転換させて、その副作用としてPGCに間接的な影響を与えるのか、従来の研究からは両者を区別することは困難でした。本研究の成果から、鳥類オスのPGCは、女性ホルモン様化学物質の影響を直接的に受けることが明らかとなり、生殖腺のみ、生殖細胞のみ、あるいは両方の毒性効果を総合的に判断できる評価基準法の確立が、鳥類において大変重要であると提言するものです。また、SDGs目標15「緑の豊かさを守ろう」に貢献するものです。

なお、本研究成果は、2023年7月29日(土)に、Poultry Science誌にオンライン掲載されました。

論文名:Diethylstilbestrol causes reduction of primordial germ cells in male Japanese quail(ジエチルスチルベストロールはニホンウズラの始原生殖細胞数を減少させる毒性作用がある)
URL:https://doi.org/10.1016/j.psj.2023.102910

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