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アルゴリズム量子化学的逆合成解析の限界を克服未知の化学反応をコンピュータ系統的に探索する新技術

【ポイント】

  • 第一原理に基づいて合成経路を予測する量子化学的逆合成解析の限界を克服。
  • 知識やデータを用いず,多段階反応の生成物から反応物を予測することに世界で初めて成功。
  • 化学反応の設計と発見を加速する新技術としての展開に期待。

【概要】
北海道大学創成研究機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD),同大学院理学研究院の前田 理 教授らの研究グループは,量子化学計算によって未知の合成経路を探索する「量子化学的逆合成解析」の限界を克服し,その多段階反応への応用を実現しました。

E. J. Corey教授によって提唱された逆合成解析は,仮想的に作りたい分子を単純な前駆体へと切り分けていくことにより合成経路を決定する反応設計法です。その功績により,Corey教授は1990年にノーベル化学賞を受賞しています。逆合成解析では,化学反応に関する膨大な知識が求められます。近年では,実験データベースを活用し,AIによって逆合成解析を行う研究も盛んに行われています。

一方で,前田教授らは,2013年に発表した解説記事の中で,量子化学計算に基づく反応経路自動探索によってこれを行う量子化学的逆合成解析を提唱しています。量子化学的逆合成解析では知識もデータも必要ありません。従って,もし一般化できれば,理想的な反応設計法となり得ます。しかしながら,膨大な分子構造空間を量子化学計算に基づいて網羅探索することは実質不可能でした。そのため,その適用例は,結合組換え回数の上限を1としたものだけに留まっていました。

本研究では,遷移状態理論とグラフクラスタリングを組み合わせた速度定数行列縮約(RCMC)法を用いることで,探索によって得られる膨大な化合物それぞれを起点とする化学反応による生成物収率の簡便計算を実現しました。これにより,収率に基づく化合物スクリーニングが実現し,組合せ爆発の問題を大幅に軽減することに成功しました。実在する化学反応の生成物を入力とした実証計算は,対応する反応物を正しく言い当てました。さらに,反応物候補が他にも多数存在することも予測しました。したがって,量子化学的逆合成解析は新たな反応設計法として非常に有望であると期待されます。

なお,本研究成果は,2022年4月22日(金)公開のJACS Au誌に掲載されました。

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