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ゾウギンザメからミネラルコルチコイド受容体の単離に成功発現解析によって生殖器官での発現量が多いことを発見

【ポイント】

  • ゾウギンザメからミネラルコルチコイド受容体の単離に成功し、生殖器官で発現量が多いことを発見。
  • ヒトでは同受容体の働きを阻害するプロゲステロンやスピロノラクトンがゾウギンザメの受容体を活性化。
  • プロゲステロンが同受容体の原始的なリガンドで、生殖器官で新たな機能を果たす可能性を示唆。

【概要】

北海道大学大学院理学研究院の勝 義直 教授、東京大学大気海洋研究所の兵藤 晋 教授・高木 亙 助教、セントクラウド州立大学(米国)のSatomi Kohno博士、シンガポール科学技術研究所(シンガポール)のByrappa Venkatesh博士、カリフォルニア大学サンディエゴ校(米国)のMichael E. Baker博士らの国際共同研究グループは、軟骨魚類であるゾウギンザメから、体液の浸透圧調節に重要な役割を果たすミネラルコルチコイド受容体の単離に成功し、発現解析から生殖器官で発現量が多いことを発見しました。

ミネラルコルチコイド受容体は、ヒトではアルドステロンというステロイドホルモンを受容し、腎臓においてナトリウムの再吸収促進やリン酸の排泄などを促すことにより、体液の浸透圧調節に深く関わっています。しかし、真骨魚類はミネラルコルチコイド受容体を発現していますが、アルドステロンは生体内で合成していません。真骨魚類のミネラルコルチコイド受容体の生体内でのリガンドは不明で、また、ミネラルコルチコイド受容体の生物進化の過程でホルモン応答性や生体内機能がどのように変化してきたのかなど、不明な点が多く残されています。

本研究では、脊椎動物の進化の過程で無顎類の次に分岐した軟骨魚類であるゾウギンザメのミネラルコルチコイド受容体を単離し、ホルモン特異性、濃度依存性を調べました。その結果、ゾウギンザメのミネラルコルチコイド受容体は哺乳類(ヒト)のミネラルコルチコイド受容体とは異なり、生殖器官で作用する黄体ホルモンであるプロゲステロンやヒトのミネラルコルチコイド受容体のアンタゴニストであるスピロノラクトンに応答して転写活性を高めることが判明しました。さらに、遺伝子発現の解析によって生殖器官でミネラルコルチコイド受容体の発現量が多いことがわかりました。

アルドステロンを合成しない動物である軟骨魚類と硬骨魚類のミネラルコルチコイド受容体が、プロゲステロンに反応を示すという結果は、ミネラルコルチコイド受容体の本来のリガンドがプロゲステロンである可能性を物語っています。さらに、生殖器官でミネラルコルチコイド受容体が多く発現しているという結果は、同受容体の生殖器官での新たな機能を有することを示唆しています。

本研究成果は、ミネラルコルチコイド受容体の分子進化や機能の全貌を理解する上で非常に重要な知見を提供します。

なお、本研究成果は、日本時間2019年6月5日(水)午前3時(米国東部夏時間2019年6月4日(火)午後2時)公開のScience Signaling誌に掲載されました。

 

詳細はプレスリリースをご覧ください。

◆勝 義直 教授による解説はこちら