アストロサイト(星状膠細胞)による睡眠覚醒制御~神経細胞の陰に隠れたスター~
【ポイント】
- 海馬のアストロサイトは覚醒を抑制し、ノンレム睡眠、レム睡眠を促進することを発見。
- 橋のアストロサイトはレム睡眠を強く抑制し、ノンレム睡眠中の脳波を制御することを解明。
- 神経細胞以外の細胞を含めた、脳全体での睡眠覚醒の制御メカニズムの全貌解明に期待。
【概要】
北海道大学大学院理学研究院の常松友美講師らの研究グループは、東北大学大学院生命科学研究科修士課程の黒木優太氏らとともに、マウスを用いて、脳を構成するグリア細胞の一種であるアストロサイトが睡眠覚醒を制御していること、海馬と橋という異なる脳領域のアストロサイトでは、睡眠覚醒制御における役割が異なることを明らかにしました。
脳は、神経細胞、グリア細胞などで構成されています。これまで、睡眠覚醒は主に神経細胞によって制御されていると考えられてきました。しかし近年、睡眠覚醒におけるグリア細胞の役割に注目が集まっています。本研究グループは、2021年に、アストロサイトの活動が睡眠覚醒に伴って変化することを明らかにしています。
では、神経細胞のように、アストロサイトも睡眠覚醒を制御しうるのでしょうか?今回、海馬と橋に着目し、アストロサイトの活動を人為的に制御したときの、睡眠覚醒への影響を検討しました。海馬のアストロサイトを活性化すると、覚醒が減少し、ノンレム睡眠、レム睡眠は増加しました。一方、橋のアストロサイトを活性化するとレム睡眠が大幅に減少し、ノンレム睡眠が増加しました。また、ノンレム睡眠中に、デルタ波と呼ばれる脳波成分が増加しました。
これらの結果は、神経細胞だけでなく、アストロサイトも睡眠覚醒制御に貢献していることを示しています。本研究成果をもとに、睡眠の制御メカニズムや生理的意義に迫ることができるだけでなく、新たな睡眠薬の開発にも繋がると期待されます。
なお、本研究成果は、2024年12月17日(火)公開のSLEEP Advances誌に掲載されました。
論文名:Chemogenetic activation of astrocytes modulates sleep/wakefulness states in a brain region-dependent manner(アストロサイトの化学遺伝学的な活性化は脳領域依存的に睡眠覚醒に影響を与える)
Yuta Kurogi, Tomomi Sanagi, Daisuke Ono, Tomomi Tsunematsu, SLEEP Advances, 2024;, zpae091
DOI: 10.1093/sleepadvances/zpae091
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