化学で自分の可能性を追求
1992年9月12日から20日までの8日間、私はスペースシャトルに搭乗し、NASA宇宙飛行士と共に多くの宇宙実験を行った。宇宙飛行士になるという子供の時からの夢を実現しただけでなく、実験化学者としての自分の能力を試すまたとない機会で、やりがいのある挑戦だった。日米の研究者が提案した43の実験テーマを、スペースラブ(宇宙実験室)を用いて行う初めての大がかりな宇宙実験だ。
スペースラブは地上では実現不可能な新しいタイプの研究実験室である。無重力状態であるということは、比重差による浮遊沈降もなければ、熱対流も生じない。静水圧もない。さらには試料を容器に入れずに実験することも可能だ。これらの性質を利用して今までどの科学者にも行い得なかった新しい実験ができる。
私たちの宇宙飛行では多岐にわたる分野の研究者が長年周到な準備をして、化合物半導体や超伝導体、合金、セラミックス、複合材料、タンパク質、高純度ガラスなどの材料を作ったり、物性を調べたりした。また、結晶成長や拡散といった物理現象、酸化還元などの化学反応の基礎的な過程を明らかにしようとした。そして、宇宙で生物が生き延びられるのか、生命が誕生するのか、という長年多くの人々が抱き続けてきた疑問にいよいよ答えを見つける糸口が開かれた。
私の仕事はこれらの実験を、研究者に代わって行う化学技術者である。自ら生体実験の被験者にもならなければならない。何にでも対応できる新しいタイプの科学者といえるかもしれない。幸運にもその一番手に任命され、多くの協力者のお蔭で、予想以上の成果をあげることができた。これも高校の時から北大で化学を勉強することを目指し、恵まれた環境で、何にでも適用できる基礎を学ぶことができたお蔭と思う。化学科では多くの境界領域と関係を持つと共に多くの人々との出会いがある。このことがこの道を選ぶ君にとって飛躍的な将来へのステップになることだろう。