研究者情報

柁原 宏

教授

KAJIHARA Hiroshi

世の中どんな生き物がいるの?

生物科学部門 多様性生物学分野

basic_photo_1
研究テーマ

海産無脊椎動物の多様性解明と体系化

研究分野動物分類学, 系統学, 体系学, 比較形態学
キーワード紐形動物, 間隙性動物

研究紹介

生命誕生の場である海洋には現在認められている約35の動物門のほぼ全てが存在します。水産資源として有用なグループも多く含まれますが、どのような動物がどのような海域に分布しており、それらを何と言う名で呼び、どのようにグルーピングするべきか、といった基本的な情報は、多くの分類群で未だに明らかになっていません。また、多様性生物学の研究成果は最終的には環境問題に関する民意の形成や行政・政治的判断が下される際の材料として生かされるべきですが、研究現場と政策決定の間には大きなギャップがあります。このギャップを埋めるシステムの構築は分類学者が将来取り組むべき課題の1つです。

study-image-0
Cephalodasys mahoae Yamauchi & Kajihara, 2018(腹毛動物門・オビムシ目). 石狩浜の地下水から発見された. 体長は1 mmの半分弱. 砂のすきまに棲んでいるいわゆる間隙性動物. 2014年度に修士課程を修了した山内翔平くんと一緒に新種記載した. 種小名は採集調査に協力してくれた山内くんの同期の萩野(旧姓・生駒)真帆くんに献名された.
study-image-1
忍路湾産エゾカスリウミウシ Diaulula odonoghuei Steinberg, 1963(軟体動物門・腹足綱). 2010年当時学部3年生だった今井裕之くんによる動物系統分類学実習のレポートがウェブ上で公開されたことがきっかけとなって日・米・露の国際研究へと発展し、それまでDiaulula sandiegensis (Cooper, 1862)と呼ばれていた日本産個体群への学名の適用が妥当ではないことが明らかになった (Lindsay et al. 2016).
study-image-2
深海浮遊性ヒモムシ Dinonemertes shinkaii Kajihara & Lindsay, 2010(紐形動物門・針紐虫綱・多針目). 日本海洋研究開発機構の有人潜水艇しんかい6500によって三陸沖の日本海溝水深2,343 mから採集された標本に基づいて記載された. 体長は3~4 cm程度 体を上下に波打たせて泳ぐ.
study-image-3
アマクサホウキムシ Phoronis emigi Hirose et al., 2014(箒虫動物門). 日本から知られるホウキムシの仲間としては4番目の種. 九州の天草から得られた標本に基づき、当時ポスドクだった廣瀬雅人くん(現・北里大学)、2010年度に卒業研究を行った吹上理勇真くん、そして加藤徹先生と一緒に記載した.
study-image-4
Proschizorhynchella shibazakii Takeda & Kajihara, 2018(扁形動物門・隠吻類). 忍路湾の波打ち際の砂利のすき間にすんでいる、体長2.5 mmほどの小さな生き物. 2013年度に修士課程を修了した武田尚也くんと一緒に新種記載した. 種小名は、実習・採集でいつも大変お世話になっている忍路臨海実験所の管理人・柴崎康二さんに献名された.
study-image-5
イトウスナムカシゴカイTrilobodrilus itoi Kajihara et al., 2015(環形動物門・ウジムカシゴカイ科). 石狩浜の波打ち際に棲んでいる. 第一発見者は2012年度に卒業研究を行った萩野(旧姓・生駒)真帆くん. 彼女と、当時ポスドクだった山崎博史くん(現・ベルリン自然史博物館)ならびに蛭田眞平くん(現・国立科学博物館)たちと一緒に原記載した. 種小名は日本の間隙動物学の礎を築いた伊藤立則先生に献名された.

代表的な研究業績

Kajihara H, Chernyshev AV, Sun SC, Sundberg P, Crandall FB (2008) Checklist of nemertean genera and species published between 1995 and 2007. Species Diversity 13 (4): 245–274.
Kajihara H (2007) A taxonomic catalogue of Japanese nemerteans (phylum Nemertea). Zoological Science 24 (4), 287–326.
Motokawa M, Kajihara H (Eds) (2017) Species Diversity of Animals in Japan. Springer Japan, Tokyo, xiii + 721.
Kajihara H, Olympia M, Kobayashi N, Katoh T, Chen X-X, Strand M, Sundberg P (2011) Systematics and phylogeny of the hoplonemertean genus Diplomma (Nemertea) based on molecular and morphological evidence. Zoological Journal of the Linnean Society 161 (4), 695–722.
Kajihara H (2009) Rhynchocoel vessel in Cephalotrichidae (Nemertea: Palaeonemertea). Journal of Natural History 44 (37-40), 2321–2329.
basic_photo_2

関連産業分野

自然史科学分野, 環境科学
学位博士(理学)
自己紹介

群馬県前橋市出身。趣味はクラシック音楽鑑賞。ヨーハン・ゼバスティアン・バッハによるリュート、チェロ、バイオリンのための無伴奏曲や、アントン・ブルックナー、グスタフ・マーラー、リヒャルト・シュトラウス、ドゥミートゥリー・ショスタコービッチによる大編成管弦楽のための交響曲・交響詩が特に好きでよく聴いています。

学歴・職歴1995年 北海道大学薬学部 卒業
1998年 北海道大学大学院理学研究科修士課程修了
2001年 北海道大学大学院理学研究科博士課程修了
2002年1月ー2002年3月 JST科学技術特別研究員(国立環境研究所)
2002年4月ー2003年3月 JSPS技術特別研究員(国立環境研究所 )
2003年4月ー2006年3月 北海道大学大学院 理学研究科 助手
2006年4月ー2007年3月 北海道大学大学院 理学研究院 助手
2007年4月ー2010年3月 北海道大学大学院 理学研究院 助教
2010年4月ー現在 北海道大学大学院 理学研究院 准教授
所属学会日本動物分類学会, 日本動物学会
居室理学部5号館 5-5-10号室
備考

柁原宏 2004. 日本分類学会連合による日本産生物種数調査.生物科学 55 (2): 71–78.
ジュディス・E・ウィンストン[著] 馬渡峻輔・柁原宏 [訳] 2008. 種を記載する:生物学者のための実際的な分類手順. 新井書院, 653 pp.
柁原宏 2017. 分類群の「数」について. タクサ 42: 54–63. https://doi.org/10.19004/taxa.42.0_54

生物科学部門 多様性生物学分野

柁原 宏

教授

basic_photo_1
いま没頭している研究テーマは何ですか?

ブーツレースワームはなぜ長くなるように進化したのか?という問いに答えるような論文を出したいと、この10年間考え続けてきました。この種はギネスブックに「もっとも長い動物」として登録されており、1864年にスコットランドで嵐の後に打ち上げられていた個体が55mに達したことが記録されています。そこまで長い個体はその後発見さていないものの、5~10mのものは結構普通に見つかります。一方、知られているヒモムシ類約1300種の平均的な体長は高々10cm程度であり、本種が他種よりも格段に長いことは疑いありません。ブーツレースワームとそれに近縁な種の系統解析に基づいて繁殖戦略の進化について論じることが出来れば良いな、と考えています。

ノルウェー・ベルゲン産ブーツレースワーム(体長65 cm)
basic_photo_1
挑戦されている大きなプロジェクトを紹介してください。

2023年から、日本の動物系統分類学者の総力を結集した教科書(2026年出版予定)の企画に編集者として携わっています。この分野では2000年代に入ってから塩基配列データの利用が一般化し、解釈に主観の入る余地の多い形態形質に基づいた従来の解析に比べて再現性・客観性が格段に向上し、信頼性の高い系統樹を描くことが比較的容易になってきました。同タイトルの叢書が1961~1999年に刊行されていたのですが、今回の出版物は過去25年に長足の進歩を遂げたこの分野の知見の更新を目指しており、国内外の専門家70人以上が全34動物門の総覧を執筆する予定です。

basic_photo_1
研究者になるまでの思い出を教えてください。

院生時代を共にした研究室の先輩・後輩が皆優秀だったので、ずっと劣等感を抱いていました。彼らの「論文レース」では常に後塵を拝しており、自分なんかが今のような研究教育職に就くことができるとは思っていませんでした。学位取得後1年間、市内の専門学校などで非常勤講師をやって糊口を凌いでいた時期があります。ある専門学校の授業の折に、学生さん達に自分が不安定な身分である事を説明したことがあるのですが、そのうちの一人から「先生はきっと将来研究者になれますよ」と励ましていただいたことがあります。精神的に苦しい時だっただけに、思いがけず温かい人の心に接し、とても嬉しかったのを忘れません。