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世界初!微小管がメカノセンサーであることを実証微小管の構造変化がモータータンパク質のダイナミクスを変調させることを解明

【ポイント】

  • 微小管が力学ストレスを感知することで,モータータンパク質(キネシン)の運動性が変調。
  • モータータンパク質の運動性の変化は,引張や圧縮,曲げなどによる微小管の構造変化に起因。
  • 細胞内物質輸送の障害に起因する神経疾患研究への波及効果等に期待。

【概要】
北海道大学大学院理学研究院のシエダ・ルバイヤ・ナスリン博士研究員,自然科学研究機構生命創成探究センターのクリスチャン・ガンサー特任助教,東京大学先端科学技術研究センターの山下雄史特任准教授,横浜市立大学大学院生命医科学研究科の池口満徳教授,名古屋大学の内橋貴之教授(兼任 自然科学研究機構生命創成探究センター客員教授),北海道大学大学院理学研究院の角五 彰准教授らの研究グループは,細胞骨格である微小管が,力学ストレスを感知しモータータンパク質の運動性を変調するメカノセンサーとして機能することを明らかにしました。

微小管は,細胞内では細胞骨格として機能するだけでなく,細胞活動に必要な物質を輸送するレールとしての役割も果たしています。物質輸送にはモータータンパク質であるキネシンやダイニンなどが関わり,微小管上を移動することで物質が運ばれます。このように様々な細胞活動に携わる微小管は常に力学的なストレスに晒されることになります。さらに微小管は最も剛直な細胞骨格でもあるため,力学ストレスの影響を真っ先に受けることになります。

そのため微小管は,力学的な情報を生化学的な情報へと変換するメカノセンサーとしても機能しているのではないかと考えられてきました。このような仮説を支持する実験結果もこれまでに幾つか報告されてきましたが,メカノセンサーとしての直接的な証拠は得られておりませんでした。

研究グループは,微小管のメカノセンサーとしての機能をモータータンパク質であるキネシンの運動性を高解像度の観察システムである高速原子間力顕微鏡を用いて分子レベルで解明しました。

その結果,微小管に沿って運動するキネシンは,微小管の屈曲等の構造的な変形により運動性を変化させるということを明らかにしました。また全原子分子動力学シミュレーション研究によって,運動速度を変化させる機構は,微小管の微小な構造変化がキネシンと微小管の結合親和性を変化させることによるものであることも明らかにしました。これらの結果は,微小管が,力学ストレスを感知しモータータンパク質の運動性を変調するメカノセンサーとして機能するという直接的な証拠であり, 世界初の報告になります。

本研究成果は,2021年10月14日(木)公開の Science Advances 誌に掲載されました。

詳細はプレスリリースをご覧下さい。