長年の謎だったアブシジン酸生産の鍵となる酵素を発見 ~食糧問題や緑化に資する植物ホルモン・アブシジン酸の大量合成に道を拓く~
- 種子の休眠やストレス応答に関わるアブシジン酸の炭素骨格をつくる鍵となる酵素の同定に成功。
- 遺伝子組換え技術を使ってアブシジン酸の人工生産を達成。
- 食料問題や緑化に資するアブシジン酸の大量合成に期待。
北海道大学大学院理学研究院の及川 英秋 教授,南 篤志 准教授の研究グループは,植物ホルモンであるアブシジン酸をつくるメカニズムを解明し,その人工生産に成功しました。
アブシジン酸(ABA)は,種子の休眠やストレス応答に関わる重要な植物ホルモンです。主に米国でトマト,ブドウといった野菜・果実類の肥大や着色促進剤,発芽時期の調整剤として農業利用されているほか,塩害による作物生産量の低下改善や乾燥地域の緑化にも効果があると期待されています。植物ホルモンという名称からもわかるように,種子植物全般でつくられているほか,菌類である糸状菌などもABAを生産することが知られていました。
本研究グループは,糸状菌がABAをつくるメカニズムの解明を目指して研究を進め,鍵となる新しいタイプの環化酵素を突き止めました。さらに,ABAをつくるために必要な4種の酵素遺伝子を麹(こうじ)菌に導入したところ,麹菌がABAをつくることを確認しました。
今回の実験によって,糸状菌は植物と比較して短い工程数でABA を生産することがわかったため,
比較的簡単に,ABA を大量生産する株を人工的につくれるようになることが期待されます。ABA の
工業生産が実現すれば,塩害地域や砂漠地域での農業生産量の向上などへの大きな貢献が見込まれま
す。
本研究は,日本学術振興会科学研究費助成事業 基盤研究A JP15H01835,基盤研究B
JP16H03277,新学術領域研究(生合成リデザイン)JP16H06446 の助成を受けて実施されました。
なお,本研究成果は,2018 年9 月18 日(火)公開のJournal of the American Chemical Society誌(アメリカ化学会誌)に掲載されました。
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