研究ニュース

奇核形状の相転移の微視的記述に初めて成功重元素合成メカニズム解明への貢献に期待

【ポイント】

  • 奇核の分光学的性質を予言する新しい理論的手法を提唱。
  • 奇核における形状の相転移を現象論的補正なしに再現することに成功。
  • 宇宙初期の重元素合成のプロセスの理解の発展に期待。

【概要】
北海道大学大学院理学研究院の野村昂亮准教授らの研究グループは、微視的な核構造理論に基づいて、奇数個の核子数を持つ原子核・奇核の分光学的性質を計算するための新しい理論的手法を提唱しました。現在知られている数千種類の原子核のうちの大半は奇核であるにも関わらず、理論的な取り扱いが非常に困難であることから、研究があまり進んでいませんでした。本研究では、核子多体系の密度汎関数理論を出発点とすることで、奇核の現象論的な模型である相互作用するボソン・フェルミオン模型(IBFM)のパラメータを決定する方法論を開発しました。原子核は、表面が変形することによって形を持ちます。原子核の形状は核子数の増減に伴って変化しますが、急激に変化する場合があり、形状の相転移と呼ばれます。奇核における形状相転移を、現象論的な補正を加えることなしに再現することに初めて成功しました。本研究は、あらゆる核種の構造をミクロな理論に基づいて記述するための包括的な枠組みの構築を目指しており、今後は、宇宙初期における元素合成過程で重要な核変換や基本対称性の検証に関わる核崩壊の理論的予言への応用が期待されます。

なお、本研究成果は、2025年9月13日(土)公開のPhysics Letters B誌に掲載されました。

論文名:Microscopic determination of the interacting boson-fermion model Hamiltonian from the nuclear energy density functional(原子核密度汎関数法を用いた相互作用するボソン・フェルミオン模型ハミルトニアンの微視的決定)
URL:https://doi.org/10.1016/j.physletb.2025.139880

プレスリリースはこちら