研究者情報

藤田 知道

教授

FUJITA Tomomichi

目をとじてごらん、ほら、植物たちの声がする

生物科学部門 形態機能学分野

basic_photo_1
研究テーマ

【植物の秘密を解き明かしその能力に学ぶ】植物は一次生産者として、私達を含む全ての地球上の命を支えています。しかし私たちは、植物のことをまだ十分にわかっていません。植物の発生や形作りはどのようにすすむのでしょうか。まわりの環境変化に、どのように応答しているのでしょうか。植物は動物と違い、自ら歩いて動き回ることができません。そのため植物は独特の応答や発生のしくみを進化させてきました。植物が陸上に上がり5億年近くになります。その間、激しい陸上環境で絶滅することもなく生きながらえてきた環境適応能力とその成長の秘密はどこにあるのでしょうか。植物の能力を分子・細胞から個体・集団レベルに至るまで総合的に理解する、そして未来に続く私たち生命の共存の道を拓いていくことを目標としています。

研究分野植物学, 植物分子生理学, 細胞生物学, 進化発生学, 宇宙生物学
キーワード成長と環境応答のクロストーク, 細胞分裂・細胞分化・細胞運命, 分化全能性, 植物幹細胞, 細胞の不等分裂・等分裂, 細胞極性, 細胞間コミュニケーション, 細胞小器官のダイナミクス, ストレス耐性, ストレスホルモン・アブシジン酸, 植物ホルモン進化, 適応進化, 宇宙実験, 宇宙環境利用, 極限環境適応, コケ植物, ヒメツリガネゴケ, シロイヌナズナ

研究紹介

自然は、植物は、緑は、なぜ美しいのでしょうか。またなぜ私たちは植物に癒されるのでしょうか。植物は、私たち動物にはない羨ましい性質をたくさん持っています。植物は全能性や再生能力に優れ無限成長するにも関わらず、なぜガンにならないのでしょうか。冬でも夏でも動かずになぜ平気なのでしょうか。植物の柔軟かつたくましい環境適応能力の根源は何なのでしょうか。植物がもつこのような“能力”を私たちに応用することができないのでしょうか。植物という生き物は、まだわからないことだらけです。当研究室では、自分たちの手でこのような本質的な問い・夢に向かって自由な発想で植物の秘密にアプローチし、その能力を解明し、植物から少しでも多くのことを学ぶことを目標に研究を展開しています。
植物は一次生産者として“宇宙船地球号”を支える私たちになくてはならないパートナーです。植物を知り、その能力をどのように活用するのかは、私たち人類の運命を握っていると言えるでしょう。植物は動物とは違う発生、進化、環境適応能力を有していますが、まだ多くのことは未解明です。そこで私たちは、(1)植物に特有の発生・進化や環境適応の分子メカニズムを研究し、(2)植物がもつ優れた能力を発見し、(3)それらを活かし、社会へ貢献することを目指し、具体的には以下の内容を中心に多角的な方法(例えば、分子生物学、遺伝学、細胞生物学、生化学、生理学、ゲノム科学、情報科学、構造科学、生態学、宇宙環境科学など)で研究を進め、植物を総合的に理解することを目指しています。こうして植物とは何かを知ることで、さらには私たちヒトとは何者なのか、どうあるべきなのか、そのような答えにも近づけるのかもしれません。ぜひ皆さんと共に植物の謎の解明に取り組みたいと思います。
(A)発生・形態形成からの植物成長制御の研究
(1)細胞の増殖と分化、運命制御の研究ーとくに細胞極性や不等分裂の分子機構、植物幹細胞の本質的理解へ
モデルコケ植物であるヒメツリガネゴケのメリットを最大限に生かし研究をします。細胞極性や平面内細胞極性、不等分裂や等分裂は発生の根本原理の解明につながる研究であり、その分子制御メカニズムや進化の理解を目指します。さらに将来、植物幹細胞の増殖・分化、細胞運命の操作などにより、農学や医学など巾広い応用展開を期待しています。
(2)原形質連絡を介した細胞間コミュニケーションの制御機構
神経のない植物独自の細胞間情報伝達機構を解明し、植物多細胞化の原理や植物の情報処理についての理解を目指します。
(B)植物の環境適応・極限環境ストレス耐性の仕組みの解明とその利用研究
(3)植物の成長と環境ストレス応答のクロストークの分子機構
植物の成長とストレス耐性は一見裏腹です。ストレス応答と成長の複雑な関係を解明し、両者を人為的にコントロールできれば、食料増産やバイオマス増大を実現できるはずです。ストレスホルモンであるアブシジン酸と細胞周期、細胞極性のバランス制御に着目し、植物の成長と環境応答のクロストークを掘り下げます。
(4)砂漠緑化、テラフォーミングの試みー極限環境下でもよく育つ植物の開発に向けて
コケ植物は、強いストレス耐性能力を持っており、また自らが土となり、荒れ地に土壌を育む “パイオニア植物”です。そこで、連続悪環境下でもたくましく育つ「スーパーコケ植物」の研究開発を行い、地球や他の星の緑化も目指します。そのためには、遺伝子や細胞小器官(葉緑体や液胞など)から個体、生態レベルでの研究・理解が必要です。JAXAと共同で国際宇宙ステーション「きぼう」利用実験もすすめ、宇宙環境で植物がいかに成長するのかを研究し、将来の宇宙居住の基礎研究を進めます。

study-image-0
研究室で大活躍のヒメツリガネゴケ
study-image-1
1つの幹細胞から非対称な細胞運命はどのように生み出されるのだろう?
study-image-2
細胞間の位置情報はどのように伝わるのだろうか?
study-image-3
植物の宇宙利用を目指した「スペース・モス」プロジェクト
study-image-4
宇宙実験用の容器で育つヒメツリガネゴケ

代表的な研究業績

Bao, L., Inoue, N., Ishikawa, M., Gotoh, E., Teh, O.-K., Higa, T., Morimoto, T., Ginanjar, E.F., Harashima, H., Noda, N., Watahiki, M., Hiwatashi, Y., Sekine, M., Hasebe, M., Wada, M. and Fujita, T. (2022) A PSTAIRE-type cyclin-dependent kinase controls light responses in land plants. Science Advances, 8, eabk2116
Kume, A., Kamachi, H., Onoda, Y., Hanba, T.Y., Hiwatashi, Y., Karahara, I., and Fujita T. (2021) How plants grow under gravity conditions besides 1 g: Perspectives from hypergravity and space experiments that employ bryophytes as a model organism. Plant Molecular Biology, 107, 279–291
Kitagawa, M., and Fujita, T. (2015) A model system for analyzing intercellular communication through plasmodesmata using moss protonemata and leaves. Journal of Plant Research, 128, 63-72.
Banks, J.A., Nishiyama, T., Hasebe, M., Bowman, J.L., Gribskov, M., dePamphilis, C., Albert, V.A., Aono, N., Aoyama, T., Ambrose, B.A., Ashton, N.W., Axtell, M.J., Barker, E., Barker, M.S., Bennetzen, J.L., Bonawitz, N.D., Chapple, C., Cheng, C., Correa, L.G.G., Dacre, M., DeBarry, J., Dreyer, I., Elias, M., Engstrom, E.M., Estelle, M., Feng, L., Finet, C., Floyd, S.K., Frommer, W.B., Fujita, T., Gramzow, L., Gutensohn, M., Harholt, J., Hattori, M., Heyl, A., Hirai, T., Hiwatashi, Y., Ishikawa, M., Iwata, M., Karol, K.G., Koehler, B., Kolukisaoglu, U., Kubo, M., Kurata, T., Lalonde, S., Li, K., Li, Y., Litt, A., Lyons, W., Manning, G., Maruyama, T., Michael, T.P., Mikami, K., Miyazaki, S., Morinaga, S., Murata, T., Mueller‐Roeber, B., Nelson, D.R., Obara, M., Oguri, Y., Olmstead, R.G., Onodera, N., Petersen, B.L., Pils, B., Prigge, M., Rensing, S.A., Riano-Pachon, D.M., Roberts, A.W., Sato, Y., Scheller, H.V., Schulz, B., Schulz, C., Shakirov, E.V., Shibagaki, N., Shinohara, N., Shippen, D.E., Sorensen, I., Sotooka, R., Sugimoto, N., Sugita, M., Sumikawa, N., Tanurdzic, M., Theissen, G., Ulvskov, P., Wakazuki, S., Weng, J.-K., Willats, W.W.G.T., Wipf, D., Wolf, P.G., Yang, L., Zimmer, A.D., Zhu, Q., Mitros, T., Hellsten, U., Loque D., Otillar, R., Salamov, A., Schmutz, J., Shapiro, H., Lindquist, E., Lucas, S., Rokhsar, D., Grigoriev, I.V. (2011) The Selaginella Genome Identifies Genetic Changes Associated with the Evolution of Vascular Plants. Science, 332, 960-963.
Fujita, T., Sakaguchi, H., Hiwatashi, H., Wagstaff, S.J., Ito, M., Deguchi, H., Sato, T., Hasebe, M. (2008) Convergent evolution of shoots in land plants: lack of auxin polar transport in moss shoots. Evolution and Development, 10, 176-186.
basic_photo_2

関連産業分野

環境科学, 健康産業, 園芸関連, 食品産業
学位博士(理学)
自己紹介

奈良出身です。野山、海、川など自然の中を散策したり、ジョギングすることが好きです。

学歴・職歴1988年 早稲田大学 教育学部 理学科生物学専修 卒業
1990年 東京大学 理学系研究科 相関理化学専攻(修士課程)修了
1993年 東京大学 理学系研究科 相関理化学専攻(博士課程)修了
1993-1994年 国立予防衛生研究所(現、国立感染症研究所)ポスドク
1994-1998年 パデュー大学(インディアナ州、アメリカ)ポスドク
1998-1999年 京都大学大学院理学研究科 ポスドク
1999-2005年 基礎生物学研究所生物進化部門 助教
2005-2016年 北海道大学大学院理学研究院 准教授
2016年- 現職
所属学会日本植物生理学会, 日本植物学会, 日本宇宙生物科学会, 日本蘚苔類学会, 地衣類研究会, 日本分子生物学会, 日本進化学会, international Molecular Moss Science Society (iMOSS)
プロジェクト宇宙におけるコケ植物の環境応答と宇宙利用(スペース・モス) (JAXA、他機関との共同研究)
居室理学部5号館 5-614号室