研究ニュース

30年前に予言された四極子近藤効果の直接観測に成功超音波で観る希土類金属化合物のサイト四極子近藤効果

【ポイント】

  • プラセオジムを含む単結晶を0.04Kの極低温まで冷却し,超音波を用いて弾性率を精密測定。
  • 通常の金属とは異なり,極低温領域で物質が温度の対数に比例して柔らかくなる振る舞いを発見。
  • 長い間実験的な証拠が得られていなかった単サイト四極子近藤効果を,世界で初めて直接観測。

【概要】

北海道大学大学院理学研究院の柳澤 達也 准教授,日高 宏之 助教,網塚 浩 教授,ヘルムホルツ研究センタードレスデン強磁場研究所(ドイツ)のセルゲイ ツェリツィン博士,ドレスデン工科大学(ドイツ)のヨハン ヴォスニッツァ教授,広島大学大学院先端物質科学研究科博士課程後期学生の山根 悠 氏,鬼丸 孝博 教授らの国際共同研究グループは,4f軌道に2つの電子を持つプラセオジム(元素記号:Pr,原子番号59)を希薄に含む化合物の弾性率(モノの硬さの一つの指標)が,絶対温度0.3K以下の極低温領域で温度の対数に比例して減少する(柔らかくなる)ことを見出しました。この特徴的な温度依存性は,磁場を加えることによって抑えられ,低温で弾性率が⼀定値に収束する通常の金属間化合物の応答に戻るため,単サイトのPrの基底状態に由来する多体効果による現象であることが強く示唆されます。

この弾性率の対数的な温度依存性は,約30年前に予言された単サイトの四極子近藤効果の予言と⼀致します。本研究では,フラックス法によって作製したPr希薄系カゴ状化合物(Y0.966Pr0.034Ir2Zn20)と,Prを含まない非磁性のYIn2Zn20の純良な単結晶を,液体ヘリウム4とヘリウム3を混合した希釈冷凍機で絶対温度0.04Kまで冷却し,極低温領域において試料に横波超音波を入射することで弾性率を精密に測定しました。

さらに超伝導磁石を用いて,強力な磁場をかけてバックグラウンドを正確に見積もることで,世界で初めて単サイトの四極子近藤効果の直接観測に成功しました。これまでにも電気抵抗や比熱によって間接的な証拠が報告されてきましたが,それらが四極子近藤効果の問題の「外堀」を埋める作業だとすれば,問題解決の決め手である電気四極子の応答を直接捉えた本研究成果は,「本丸」を攻め落とし決着をつけたとも言えます。また,本研究成果は,固体中の電子の持つ多様な量子自由度を制御し,それらを応用に結びつけた新しい量子情報素子等の開発など,将来に向けて幅広い分野での基礎となる重要な成果です。

なお,本研究成果は,米国時間2019年8月6日(火)公開のPhysical Review Letters誌(オンライン版)に掲載されました。

また,本研究は,日本学術振興会科学研究費助成事業基盤研究C(17K05525),基盤研究B(18H01182),新学術領域(研究領域提案型)「J-Physics:多極子伝導系の物理」(15H05882)(研究代表者:播磨 尚朝)における計画研究班「C01:拡張多極子による動的応答」(15H05885)(研究代表者:網塚 浩),同計画研究班「D01:強相関多極子物質の開発」(15H05886)(研究代表者:野原 実),同公募研究班「電流と格子回転・歪みによる複合共役場を用いた拡張多極子検出の試み」(18H04297)(研究代表者:柳澤 達也)の⼀環として行われました。

詳細はプレスリリースをご覧ください。