研究者情報

柳澤 達也

准教授

YANAGISAWA Tatsuya

超音波で観る固体中の電子

物理学部門 凝縮系物理学分野

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研究テーマ

1) 電流と格子回転・歪みによる複合共役場を用いた拡張多極子検出の試み
2) 局所空間反転対称性無きウラン化合物の超音波物性
3) 高対称カゴ状結晶構造に起因する複合量子自由度の超音波物性研究

研究分野物性物理学, 強相関電子系, 低温物理学
キーワード超音波, 極低温, 強磁場, 磁性, 超伝導, ラットリング, カゴ状化合物, Jマテリアル

研究紹介

「超音波とは?」
超音波はヒトが耳で感じることのできる音よりも高い周波数(一般的に20 kHz以上)を持つ音の波の総称です。音は粗密波や弾性波として、空気中だけでなく、液体中や固体中などあらゆる物質中を伝わります。「どんな物質中でも伝搬する」・「人体に無害」という超音波性質を活かして、超音波は我々の生活の様々な場面に応用されています。(図1)。

「どうやって超音波で電子を観るのですか?」
固体をミクロな視点でみると、原子どうしが手をつないで、ジャングルジムのような格子状に連なっているものと考えることができます。図2は横波の超音波が弾性波(剪断波(せんだんは))として固体の中を伝わる瞬間をえがいた図です。真ん中の「ぐにゃ」と曲がっている赤い部分に注目すると、正方形がひし形に変形し、反時計回りに回転しています。この部分にいる電子は周囲の原子との間の相互作用により、誘起された歪(ひず)みや回転を「場(ば)」として感じます。それは逆に言うと、電子の状態が変化した場合は、音の波の伝わり方(モノの硬さ)が変化することになります。一般に、モノは低温にすると「硬く」なりますが、世の中には電子系のいたずらで、逆に「柔らかく」なる不思議な物質も存在し、硬さ・柔らかさの性質(弾性)の観点から、間接的に電子系の研究を行うことができるのです。専門用語で言うと、超音波測定とは、固体中の電子の静電ポテンシャルを外から直接揺さぶり、その応答を観測する珍しい手法です。この手法は、電子が持つ磁石としての性質「スピン」を計測する磁気測定や、エントロピーに対応する比熱測定と並び、超音波測定は物性物理学(モノの性質を調べる物理学)における有効な測定手段の一つとなっています。

「具体的に何を研究しているのですか?」
我々は電子の軌道の自由度が物性に影響を与える例が顕著にみられる希土類やアクチノイド元素を含む磁性体や超伝導物質を研究しています。これらの元素は、f軌道と呼ばれる電子軌道を持ちますが、絶対零度近くまで温度を下げると、量子力学的な性質によって電子のスピンの自由度と軌道自由度が絡み合い、束縛が解けた電子同士が互いの運動に影響を及ぼし合う「重い電子状態」や、電子軌道が一方向に整列する「多極子秩序」等を起こすことがあります。そういった固体中で強く相関し合う電子の振る舞いが、温度・磁場・圧力などの変化に対して性質を変える現象「相転移」について研究しています。そのために-272 ℃以下の極低温、2万気圧以上の高圧下、60テスラ以上の強磁場下での極限環境下における超音波測定を行い、今までにない機能を示す新物質を日々探し求めています。

「何を目指しているのですか?」
 私がこれまで特に力を入れて取り組んできたのは、カゴの形をした結晶構造を持つ物質が示す特異な電子状態の問題です。(図3)カゴに内包された原子が周りのカゴとゆるく結合している場合、カゴの中でガラガラと振動します(英語で‘‘Rattling(ラットリング)”といいます)。極低温においては、量子力学の不確定性原理により、原子のガラガラ振動がエンタングルメント状態になったり、その「揺らぎ」が超伝導に影響を与えていると考えられる物質も見つかっています。このような新型の超伝導の発現機構の解明を目指す地道な基礎研究はもとより、未来の量子コンピュータにける、ミクロな演算素子やメモリ素子として、この新しい自由度である「ガラガラ振動」が応用できるのではないかと期待しつつ、毎日ワクワクしながら研究を行っています。

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図1 超音波の応用例
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図2 横波弾性波が誘起する局所歪みと回転
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図3 カゴ状の結晶構造を持つ化合物
(PrOs4Sb12, UBe13, U3Pd20Si6

代表的な研究業績

Evidence for the Single-Site Quadrupolar Kondo Effect in the Dilute non-Kramers System Y1-xPrxIr2Zn20
T. Yanagisawa, H. Hidaka, H. Amitsuka, S. Zherlitsyn, J. Wosnitza, Y. Yamane, and T. Onimaru
Phys. Rev. Lett. 123 (2019) 067201.
Search for multipolar instability in URu2Si2 studied by ultrasonic measurements under pulsed magnetic field'
T. Yanagisawa, S. Mombetsu, H. Hidaka, H. Amitsuka, P. T. Cong, S. Yasin, S. Zherlitsyn, J. Wosnitza, K. Huang, N. Kanchanavatee, M. Janoschek, M. B. Maple, and D. Aoki
Phys. Rev. B 97 (2018) 155137.
Evidence for a New Magnetoelectric Effect of Current-Induced Magnetization in a Toroidal Magnetic Ordered State of UNi4B'
Hiraku Saito, Kenta Uenishi, Naoyuki Miura, Chihiro Tabata, Hiroyuki Hidaka, Tatsuya Yanagisawa, and Hiroshi Amitsuka
J. Phys. Soc. Jpn. 87 (2018) 033702. (Editor's Choice)
Study of Localized Character of 4f Electrons and Ultrasonic Dispersions in SmOs4Sb12 by High-Pressure High-Frequency Ultrasonic Measurements'
S. Mombetsu, T. Murazumi, H. Hidaka, T. Yanagisawa, H. Amitsuka, P.-C. Ho, and M. B. Maple
Phys. Rev. B 94 (2016) 084152.
Gamma 3-type Lattice Instability and the Hidden Order of URu2Si2'
Tatsuya Yanagisawa, Shota Mombetsu, Hiroyuki Hidaka, Hiroshi Amitsuka, Mitsuhiro Akatsu, Shadi Yasin, Sergei Zherlitsyn, Jochen Wosnitza, Kevin Huang, and M. Brian Maple
J. Phys. Soc. Jpn. 82 (2013) 013601.

関連産業分野

量子デバイス, 半導体, 機能性材料
学位博士(理学)
自己紹介

私は雪国越後の上越市に生まれ、地元の新潟で超音波計測技術と群論を教わり、修了後は陽光降り注ぐ米国西海岸で試料合成とクラフトビール醸造の修行を積んだ後、試される北の大地に移住して現職に至ります。座右の銘はヘイケ・カマリンオンネス先生の言葉「計測を通じて認識する( “door meten tot weten” )」です。超音波で固体中の電子状態を観る手法に多少なりとも興味を持たれた方は、ぜひお声がけください。

学歴・職歴2004年 新潟大学大学院自然科学研究科修了
2004年 カリフォルニア大学サンディエゴ校(JSPS海外特別研究員)
2007年 新潟大学大学院自然科学研究科 科研費研究員
2008年 北海道大学 創成研究機構 特任助教(テニュアトラック)
2012年 北海道大学大学院理学研究院 准教授(現職)
所属学会日本物理学会
プロジェクト文部科学省新学術領域研究「J-Physics:多極子伝導系の物理」
居室理学部5号館 5-130号室

物理学部門 凝縮系物理学分野

柳澤 達也

准教授

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いま没頭している研究テーマは何ですか?

「四極子近藤効果」という物理現象に関する研究です。「近藤効果」とは、物質中の伝導電子と磁性不純物が束縛状態を作るという物理現象で、1964年に近藤淳先生によって提唱されました。今では世界中の研究室で「Kondo」の名前を聞かない日はないほど、広い分野に応用されています。1980年代には(磁気)近藤効果の次数を1つ上げた「(電気)四極子近藤効果」が別の理論家によって提案されましたが、その直接的な実証は得られておりませんでした。最近、我々は極低温における希土類金属化合物の超音波測定によって、その理論が予言する四極子応答の対数的温度変化を世界で初めて捉えることに成功しました

四極子近藤効果の証拠となるΓ3対称性の四極子感受率(弾性定数(C11-C12)/2)の対数的温度変化
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研究者になったきっかけは何ですか?

私が実験系研究者を志した根っこには、好奇心旺盛だった父の影響があります。
父は研究者ではなく、小さな町の車両販売・整備を自営していました。しかし、仕事の傍ら、自作の風力発電システムで蓄電した電気自動車を走らせたり、地元の小学校で自家発電の出前授業をしたりするなど、いわゆる「街の発明家」的人物でした。私の幼少時代のおもちゃは、父が使い古したPC-8001という(プロセッサの周波数が4 MHzの)パーソナルコンピュータでした。他にもアマチュア無線機や、半田ごて、エンジン式のラジコンヘリ部品、業務用のビデオ編集機などが家に転がっており、それらで遊んだ経験が、今の研究にも役立っています。

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研究室の自慢を教えてください。

新しい物理は常に装置開発を行っている研究室から生まれる、というのが私の信念です。実験で使う特殊な冷凍機は理学部の機械工作室の優秀な技術職員の手を借りて、できるだけ自作するようにしています。そちらのほうが伝統芸能的な低温技術を継承することに繋がると信じていますし、国民の血税を節約できますからね。(写真は、最近作ったヘリウム3シングルショット冷凍機と機械工作室の皆さんです。)約110年前にヘリウムの液化に成功したオランダの実験物理学者、ヘイケ・カマリンオンネス博士も自作の冷凍機で超伝導を発見し、ノーベル賞をとりました。博士の言葉 『計測を通じて認識する』 を私は座右の銘にしています。

新しく作成したヘリウム3冷凍機を持つ当研究室の学生と機械工作室技術職員の皆さん

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得意なこと、⼤好きなこと、趣味、⽇課を教えてください。

米国西海岸でのポスドク時代にクラフトビールの深淵なる世界を知ってしまい、それ以来ビール工房巡りが趣味になりました。米国やヨーロッパなどの研究機関で共同研究をする際は、現地の酵母入りビールを飲み比べするのが楽しみです。もちろん日本のビールも大好きで、特に地元のサッポロクラシック富良野ビンテージがお気に入り。ビールと泡を7:3の黄金比で注ぐ方法を子供に教え込むと、それを喜んでやってくれるのが嬉しいです。

チェコ共和国のビール貯蔵室で無濾過樽出しビールを手にする著者