佐藤 長緒准教授/SATO, Takeo
一見静かに生きている植物ですが、彼らは絶えず環境中のストレスと戦っています。栄養バランスの乱れや病原体の感染ストレス等がその代表的な例です。ではどうやって生きているのか?その答えを探すために、植物の細胞内で起こっている生命現象を、遺伝子やタンパク質の機能に着目し研究しています。特定の場所で生き続ける植物には、環境ストレスに適応するための驚くべき能力が沢山あります。モデル生物であるシロイヌナズナを主な材料に、遺伝子が壊れた植物体の解析や細胞内シグナル伝達系を担うタンパク質同士の結合、修飾、輸送、分解といったミクロな生命現象を先端的な手法で解析しています。こうした実験を通して、植物が環境ストレスにどう適応し、生存しているのかを明らかにしたいと思っています。
私たちヒトや動物と違い、植物は、大きな声を出して話したり、どこかに移動したりすることはできません。そのため、一見植物の変化は伝わりづらいかもしれません。しかし、実は植物の体内では驚くほどダイナミックな変化が絶えず起こっています。そうして、暑くなったり、病気になったり、食べ物(栄養分)が不足したりといった様々な環境ストレスに適応しながら生き抜いています。ふだん何気なく生えている植物ですが、そこには私たちの知らない「生きる秘密」が沢山あります。静かな植物のなかで起こる生きるためのメカニズムを実験しながら一緒に解き明かしましょう。
参考文献
- 「C/Nバランス調節による植物の代謝・成長戦略」,化学と生物,51:763-772, 2013年
- 「植物のRING型ユビキチンリガーゼとプロテアソームの機能」,生化学, 84:416-424, 2012年
- 「ユビキチンカスケード-プロテアソームシステムによる植物の栄養応答制御 ~C/Nバランス応答機構解明の新たな糸口~」,化学と生物,47:2-4,2009年
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- Hasegawa Y, Huarancca Reyes T, Uemura T, Baral A, Fujimaki A, Luo Y, Morita Y, Saeki Y, Maekawa S, Yasudaa S, Mukuta K, Fukao Y, Tanaka K, Nakano A, Takagi J, Bhalerao RP, Yamaguchi J and Sato T*, The TGN/EE SNARE protein SYP61 and the ubiquitin ligase ATL31 cooperatively regulate plant responses to carbon/nitrogen conditions in Arabidopsis. Plant Cell, 34: 1354-1374. 2022
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- Sato T, Maekawa S, Yasuda S, Domeki Y, Sueyoshi K, Fujiwara M, Fukao Y, Goto DB and Yamaguchi J, Identification of 14-3-3 proteins as a target of ATL31 ubiquitin ligase, a regulator of the C/N response in Arabidopsis. Plant J., 68, 137-146. 2011
- Sato T, Maekawa S, Yasuda S, Sonoda S, Katoh E, Ichikawa T, Nakazawa M, Seki M, Shinozaki K, Matsui M, Goto DB, Ikeda A and Yamaguchi J, CNI1/ATL31, a RING type ubiquitin ligase that functions in the Carbon/Nitrogen response for growth phase transition in Arabidopsis seedlings. Plant J., 60, 852-864. 2009
栄養素代謝
炭素や窒素をはじめとする様々な栄養素の摂取と代謝は、生物の維持に欠かせないものです。細胞の中では、秩序の良い化学反応に従い数千~数万の物質が効率よく代謝されています。従って、その代謝過程は厳密に統制されています。それがおかしくなると、様々に問題(病気)がおこります。(山口淳二、佐藤長緒)
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環境適応
生物は、温度・乾燥といった生育環境の変化(非生物ストレスと称します)やウイルスやカビのような病原体の感染(生物ストレス)といった事態に対応・適応することで生き残りを図ります。移動が不可能な植物は、優れた環境適応能力を持っているという特徴があります。(山口淳二、佐藤長緒)
生物の形態、生態、行動、代謝などの性質が、ある環境のもとで生育するのに適していることや、より適した状態に変化することです。例えば、低温性の細菌は、0℃というような低温に適応しており、全ての代謝系の活性を維持し、増殖することが可能です。
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高CO2適応
みなさんもご存知の通り、CO2濃度の上昇とそれに伴う温暖化は地球規模での環境問題となっています。これは、CO2を吸収し光合成を行う植物にとっても大きな影響があります。植物の光合成能力を高め、より効果的にCO2を吸収できるメカニズムの研究が大切になっています。また、これをうまく利用すれば、光合成をたくさん行う、より大きな野菜や甘い果実を作ることが可能になるかもしれません。こうした植物の高CO2応答機構を研究することで、地球環境問題に貢献することが期待されています。(佐藤長緒)
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プロテオミクス
細胞内の様々な反応を行う「タンパク質」について研究すること。タンパク質同士の結合、輸送、分解などのミクロな生命現象を研究します。先端的な手法や機器を駆使することで、膨大な数のタンパク質の中から注目すべきタンパク質をピックアップすることができます。(佐藤長緒)
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ユビキチン・プロテアソームシステム
細胞の中で働いている多種多様なタンパク質には、各々寿命があります。この「寿命」の決定に重要な働きをしているのが、ユビキチン・プロテアソームシステムです。ユビキチンは、原核細胞から真核細胞まで、普遍的に存在するタンパク質で、「いたるところに存在する(ubiquitous)」が、名前の由来です。「寿命」が尽きたタンパク質に結合します。そして、プロテアソームは、このユビキチンが付いたタンパク質を分解するための実行機械です。このシステムは、細胞内タンパク質の「品質管理」という面だけでなく、様々な生命現象を調節する「分子スイッチ」としても働いています。(山口淳二、佐藤長緒)
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