研究トピックス

植物が栄養環境に応じて花を咲かせる仕組みを解明

形態機能学系の佐藤長緒先生の研究グループは、ワシントン大学(アメリカ合衆国)、東京大学、京都大学、名古屋大学、マックス・プランク​植物育種学研究所(ドイツ)、埼玉大学、ルーベン・カトリック大学(ベルギー)、国立研究開発法人産業技術総合研究所との共同研究によって、植物が土壌中の窒素量に応じて花を咲かせる仕組みを解明して、論文発表しました。北大のプレスリリースでも掲載されています。以下、佐藤先生による解説です。

 

植物にとって窒素はもっとも必要量が多い栄養素で、窒素が欠乏すると植物は大きく成長できません。ただし、化学肥料として大気中の窒素を固定するために、世界中で大量の電力を消費しており、余剰な施肥により投入された窒素は大気、土、水に放出されるため、深刻な環境負荷をもたらしています。また、窒素を過剰に与えると、葉の成長が促進される一方で、花が咲きにくくなることが古くから知られており、農作物の施肥管理においても重要な点になっています。しかし、こうした窒素に応答した開花制御の分子機構は長年謎のままでした。

もし、植物が窒素量に応じて葉の生育と開花のバランスを制御する仕組みを解明することができれば、施肥の最適化によって作物の収量増加や環境問題解決へ貢献することが期待されます。

本研究では、モデル植物シロイヌナズナを材料に、窒素量に応じた植物の開花制御に、転写因子FBH4タンパク質の働きが重要であることを発見しました。そして、FBH4タンパク質の機能を調節する方法として、リン酸化修飾が鍵となることを見つけました。通常、植物体内でFBH4タンパク質は多くのリン酸化修飾を受けていますが、この度合いが窒素欠乏条件で育てた植物体内では顕著に減少していました。このFBH4タンパク質のリン酸化修飾が、まさに開花のブレーキとなっていて、このブレーキが外れると「花咲かホルモン」である「フロリゲン」が増加し、開花が誘導されることがわかりました。

本研究で得られた知見は、土壌中の窒素栄養環境に左右されずに成長と開花のバランスを保ち、安定した収量を得られる作物品種の開発に役立つことが期待されます。

 

野生型シロイヌナズナ株及びFBH4遺伝子とそのホモログ遺伝子の機能を抑制した変異株の開花時期の違い

 

発表論文:Sanagi M, Aoyama S, Kubo A, Lu Y, Sato Y, Ito S, Abe M, Mitsuda N, Ohme-Takagi M, Kiba T, Nakagami H, Rolland F, Yamaguchi J, Imaizumi T and Sato T (2021) Low nitrogen conditions accelerate flowering by modulating the phosphorylation state of FLOWERING BHLH 4 in Arabidopsis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 118: e2022942118. Doi: 10.1073/pnas.2022942118