研究者情報

橋本 武志

教授

HASHIMOTO Takeshi

電磁気でみる地下構造

地震火山研究観測センター 地下構造研究分野

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研究テーマ

地震や火山噴火発生場の地下構造研究

研究分野火山学, 地球電磁気学
キーワード火山, 地震, 地磁気観測, 電磁気探査, 噴火予知

研究紹介

私たちは、何万光年も遠くにある銀河を望遠鏡で見ることができますが、地面の下は1cmたりとも見えません。これは、我々の目が可視光線しか感じることができないためです。しかし、より長い波長の電磁波を使うと、地下の様子をイメージングすることができます。プレートの会合部であり、日本の中でもとくに地震活動や火山活動が活発な地域である北海道の地下がどのような構造になっているのかを明らかにすることは、地震火山センターの重要な研究テーマのひとつです。地震はどこでもまんべんなく起こるわけではなく、特定の領域に集中して発生しますが、その原因は地下の構造にあるのではないかと考えられています。例えば、2018年に発生した胆振地方東部地震は、石狩低地帯と呼ばれる地域の東縁に位置する活断層帯(石狩東縁断層帯)の南東側で発生しましたが、当センターで過去に実施した電磁波による地下構造探査(Fig. 1, Ref. 2)では、この活断層帯の深部では周辺に比べて電気抵抗が極端に低いという特徴が見られます。どうしてそうなっているのかはまだ研究途上ですが、こうした調査を積み重ねていくことで、将来、地下構造の特徴から地震の発生しやすい場所を指摘できるようになるかもしれません。
当センターの地下構造研究分野では電磁気的な観測・探査を主要なツールとしているのですが、私自身は(節操なく)いろいろなことに手を出してきました。例えば、岩石の磁性が温度依存性をもっているという特性を利用して、地磁気変化の観測から火山活動に伴う温度変化をモニタリングする研究(Ref. 4, 5)、火山噴煙中の二酸化硫黄の濃度分布を可視化する紫外線カメラの自作(Fig. 2)、火口の写真から自動的に噴気を除去するソフトの開発(Fig. 3, Ref. 1)、火山観測に無人航空機(ドローン)の利用を広げる研究(Fig. 4)などです。もちろん、うまくいかなくて行き倒れになってしまうものもあるのですが、特に火山の研究では、さまざまな視点から研究対象を見ることで、研究そのものの面白さや奥深さを感じる機会が増えるように思います。

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電磁気構造探査による石狩低地帯の東西断面(Ref.2, Yamaya et al., 2017に加筆)。カラーは電気比抵抗を表す。
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火山噴煙に含まれる二酸化硫黄ガスを可視化する紫外線カメラ(橋本・他, 2015)
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噴火口の写真から白い噴気を除去する画像処理(Ref.1, Hashimoto et al., 2018).
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御嶽山の火山ガス観測に向かうドローン(Mori et al., 2016).

代表的な研究業績

Volcanic smoke reduction in visible and thermal infrared imagery, T. Hashimoto, A. Terada, R. Tanaka, Earth Planets Space, 2018, 70:109.
Three‐Dimensional Electrical Resistivity Modeling to Elucidate the Crustal Magma Supply System Beneath Aso Caldera, Japan, M. Hata, N. Matsushima, S. Takakura, M. Utsugi, T. Hashimoto, M. Uyeshima, J. Geophys. Res. Solid Earth, 2018, 123 6334-6346.
Permeability-control on volcanic hydrothermal system: case study for Mt. Tokachidake, Japan, based on numerical simulation and field observation, R. Tanaka, T. Hashimoto, N. Matsushima, T. Ishido, Earth Planets Space, 2017, 69.
Aeromagnetic survey using an unmanned autonomous helicopter over Tarumae Volcano, northern Japan, T. Hashimoto, T. Koyama, T. Kaneko, T. Ohminato, T. Yanagisawa, M. Yoshimoto, E. Suzuki, Explor. Geophys., 2014, 45, 37-42.
The role of Thermal Viscous Remanent Magnetisation (TVRM) in magnetic changes associated with volcanic eruptions: insights from the 2000 eruption of Mt Usu, Japan, T. Hashimoto, T. Hurst, A. Suzuki, T. Mogi, Y. Yamaya and M. Tamura, J. Volcanol. Geotherm. Res., 2008, 176, 610-616.
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関連産業分野

社会基盤, ジオパーク, 地下資源, エネルギー
学位博士(理学)
自己紹介

どのような研究分野でもそうですが、「その気になって」データとしっかり向き合うことは大切です。しかし地球科学では、研究対象そのものを自分でよく観察することもそれと同じくらい重要だというのが私の考えです。計測データより自分の感覚の方が正しいと言いたいのではありません。計測もまた知覚と同じ意味で不完全なものなのに、我々はしばしばそれを忘れがちになるからです。若かりしころ、火山の噴火を見ていて自分と世界の境界が消えていくような感覚を体験したことがあります。この世に起こるすべてのことは一度限りのこと。二度と同じことが繰り返すことはありません。みなさんがこれから観ようとする地球とそこに起こる事象もまた、幸運なことにこれまで誰も見たことがないものに違いありません。

学歴・職歴1991年 京都大学理学部卒業
1993年 京都大学大学院理学研究科修士課程修了
1996年 京都大学大学院理学研究科博士課程修了
1996-2003年 京都大学助手
2003-2007年 北海道大学助教授
2007-2015年 北海道大学准教授
2015年- 現職
所属学会日本火山学会
プロジェクト文部科学省「次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト」
文部科学省「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」
居室理学部4号館 4-313室

地震火山研究観測センター 地下構造研究分野

橋本 武志

教授

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いま没頭している研究テーマは何ですか?

電磁波を利用した北海道の地下構造イメージングに継続的に取り組んでいます。プレートの沈み込みや、地震・火山の活動が、地下や地表の形態にどのように反映されているかに関心があります。構造の情報が直接的に地震や噴火の予知につながるわけではありませんが、現象の理解を深めるための強力な手がかりとなり得ると考えています。没頭しているといえるほど研究活動に時間を割けていないのが困ったところですが。

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尊敬する研究者は誰ですか?理由も教えてください。

なれるはずはないけれど、「科学者として自分もこのようになりたい」と思う人物を一人だけあげるとすれば、物理学者の佐藤文隆先生ですね。直接お話ししたことすらなく、一方的なファンでしかないのですが、科学の営みや科学者という職業について明確な考えと矜持を持ってお仕事をしてこられたこと、とてつもない碩学せきがく、常にいろんな角度から物事を検討しようとする真摯な態、そして何といってもしびれるようなカッコいい言葉、どれをとっても自分には遠く及ばないものばかりですが、自分にとっていわば北極星のような存在です。

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研究に⾏詰まったらどんなことをしますか?

研究に行き詰まったからという理由で何か特別なことはしません。逆に、調子がいいからといって、普段より多く仕事をしたり、いつもと違うことをしたりといったこともありません。出来・不出来に振り回されないように、目の前の課題をなるべく丁寧にやることに集中するよう心がけています。

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得意なこと、⼤好きなこと、趣味、⽇課を教えてください。

北大構内は疲れた時のリフレッシュ・スポットに恵まれていますが、私のお薦めは薬学部の薬草植物園です。春から秋にかけて、実にいろいろな植物が日々変化していくようすを観察できます。ただぼうっと散歩するだけで、散らかった頭の中が整頓されていく気がします。また、心理的に疲れたときは、iPadで人の顔を描くのがちょっとした習慣です。ディテールに集中することで、心に重圧を与えているものから一時的に離れることができるのです。

薬学部附属薬草植物園の植物たち
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研究者になるまでの思い出を教えてください。

大学院生時代は将来にビジョンが持てず、悩んでばかりいた気がします。研究者という仕事は、たとえ小さなことであれ自分が発見し考えたことを後世に残せるという点で、やりがいを感じられる職業です。それは,、過去と未来をつなぐスレッドの上に自分を置く安堵感にも通じます。しかし、自分にそれに見合う才能があるとはとても思えず、そのギャップに苦しんでいました。一方で、いつまでも「学校」という囲われた場所から抜け出せない自分に対する忸怩たる思いもありました。「そんなに勉強して何すんの?」という自問です。「社会に出そびれた自分」という感覚は、職業研究者となった今でも心の片隅にありますね。