研究テーマ | 核磁気共鳴分光法を使った電子物性の精密測定。 |
研究分野 | 強相関電子物性, 強磁場物性 |
キーワード | 核磁気共鳴法, パルス強磁場, 超伝導, 量子スピン, 巨視的量子凝縮状態 |
研究紹介
私の研究対象は電子です。電子単体は非常によく素性の知られた素粒子ですが、固体中で無数の電子が集団を作ると実に様々な性質を示します。それは現代のハイテク技術に欠かすことのできない実用的な機能から、実生活には全く役に立たないが、物理学の根幹を成す重要な概念の発展に資する現象まで、多岐にわたります。その中で私は電子の量子性が顕著に現れる現象に興味を持って研究を行っています。
私たちの生活の中で量子性を体感する機会はそう多くありません。そのため、電子の量子性が現れると日常的な感覚とはかけ離れた不思議な現象が観測されます。例えば水を想像すると、摂氏100度以上では気体、摂氏0度から100度までは液体、それより低い温度では固体と、温度を下げるにつれて水分子はエネルギーを失い、次第に静止していくという現象は日常でよく見かけられます。これに対し、極低温領域に踏み込むと、量子力学的不確定性により低温に行くほど電子が動き回るという、おかしな振る舞いが現れます。このように量子力学的効果により電子が動き回る(揺らぐ)ことで、超伝導状態やスピン液体状態など多彩な電子状態が観測されています。
私の研究は基礎研究に分類されますが、基礎研究の醍醐味は世界中の誰も知らない不可思議な物理現象を目の当たりにできることです。この貴重な瞬間に立ち会うためには、「新しい領域」に挑戦すること、そして「じっくり観察」することが重要であると考えています。「新しい領域」とは、まず新物質、そして誰も到達したことのない極低温、超高圧などが考えられますが、私は未踏の強磁場領域へ挑戦しています。一般的な研究で用いられる磁場は10テスラ前後ですが、私たちはそれを大きく上回る50テスラ級の磁場を用いて研究を行っています。ただし、50テスラ級の磁場を発生させるためには非常に大きなエネルギーが必要なため、一瞬(10分の1秒以下)しか発生させることができません。そのため、これまでは2つ目のカギである「じっくり観察」ということは難しいと考えられていました。そこで、私たちは電子の性質をミクロな視点から詳細に観測することができる核磁気共鳴分光法を強磁場発生技術と組み合わせることで未踏磁場領域での精密測定実現に取り組んでいます。精密測定を実現するには磁場発生のために投入する巨大なエネルギーを、高速に、そして正確に制御する必要があります。近年の技術革新によりこの課題が解決され、現在では新しい測定手法がほぼ確立したという段階に来ています。今後は、強磁場により引き起こされる様々な量子現象をつぶさに観測し、電子が引き起こす摩訶不思議な物理現象をこの目で捉えていくつもりです。
代表的な研究業績
Y. Ihara, K. Matsui, Y. Kohama, S. Luther, D. Ophereden, J. Wosnitza, H. Kuhne, and H. K. Yoshida,
J. Phys. Soc. Jpn. 90, 023703 (2021)
K. Matsui, T. Kanda, Y. Ihara, K. Kindo, and Y. Kohama,
Rev. Sci. Instrum. 92, 024711 (2021).
Y. Ihara, K. Arashimda, M. Hirata, Y. Sasaki, and H. Yoshida,
Phys. Rev. Research 2, 023269 (2020).
Y. Ihara, K. Moribe, S. Fukuoka, and A. Kawamoto,
Physical Review B 100, 060505(R) (2019)
Y. Ihara, T. Sasaki, N. Noguchi, Y. Ishii, M. Oda, and H. Yoshida,
Phys. Rev. B, 96, 180409(R) (2017)
関連産業分野
学位 | 博士(理学) |
所属学会 | 日本物理学会 |
居室 | 理学5号館 5-128号室 |