磁場変化の大きいパルス磁場中でのNMR緩和率測定に世界で初めて成功~極限的な強磁場下での精密測定に期待~
【ポイント】
- NMR測定装置の高度化により0.03秒という短時間磁場パルス中でのNMR測定に成功。
- デジタル無線技術を応用し,限られた時間幅で周波数掃引NMRスペクトルの高速測定に成功。
- 低コストかつ小型のNMR測定装置による,広範な産業利用に期待。
【概要】
北海道大学大学院理学研究院の井原慶彦講師らの研究グループは,東京大学物性研究所の博士課程神田朋希氏,松井一樹博士,金道浩一教授,小濱芳允准教授らと共同で,デジタル無線技術と磁場のフィードバック制御技術を応用した装置開発を行い,3/100秒程度の非常に短いパルス磁場発生時間中にNMR信号を観測することに成功しました。
パルス磁場技術は一般的に用いられている定常磁場の限界(20テスラ程度)をはるかに超える磁場を発生させることができる画期的な技術ですが,磁場発生時間が短く,また磁場発生中は磁場強度が激しく時間変動するためNMR測定のような精密測定はこれまでほとんど実現されていませんでした。
研究グループはパルス磁場発生中に磁場強度をフィードバック制御することで磁場の時間変動を100ppm以下まで抑制し,またデジタル無線技術を応用したNMR測定装置を開発することで,限られた測定時間の中で高密度なNMR信号の取得を可能にしました。これらの先進技術を組み合わせることで,世界で初めてパルス磁場中での周波数掃引NMRスペクトル測定とNMR緩和率測定に成功しました。
NMR測定技術は,これまでに複数の分野で何度もノーベル賞の受賞対象になっていることからもわかるように,基礎科学から産業応用まで広く人類社会に根付いた科学技術です。
これまでは強磁場を得るために液体ヘリウムの供給を必要とする超伝導電磁石が用いられてきましたが,これらを必要としないパルス磁場中でのNMR測定に成功したことで測定装置の低コスト化,小規模化が可能となり,より多様な場面で産業に応用されることが期待されます。また,定常磁場では到達不可能であった強磁場領域での基礎科学研究が進むことも期待されます。
なお,本研究成果は,2021年11月12日(金)公開のReview of Scientific Instrumentsにオンライン掲載されました。
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