研究者情報

川野 潤

准教授

KAWANO Jun

鉱物の成長メカニズムを原子レベルで理解する

地球惑星科学部門 地球惑星システム科学分野

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研究テーマ

鉱物(特に炭酸塩鉱物)の準安定形成メカニズムの理論的・実験的研究
鉱物の形成/溶解場のpH2次元イメージング

研究分野鉱物学, 結晶成長学
キーワード鉱物, 結晶成長, バイオミネラリゼーション, 鉱物ー水相互作用, 準安定相, アモルファス, 炭酸塩鉱物, 分子シミュレーション

研究紹介

さまざまな鉱物・結晶の成長や構造変化のメカニズムを、実験や計算機シミュレーションにより明らかにすることを目的として研究を行っています。とくに、貝殻などの生体鉱物を構成する代表的な物質である炭酸塩鉱物の結晶成長や溶解のメカニズムに興味をもち、研究を進めています。このような鉱物は、水溶液から形成する際、直接安定な鉱物相にはならず、さまざまな準安定相や非晶質相を経由して複雑な過程をたどることが知られています。私たちは、合成実験を行ってそのような形成過程を明らかにしてきたのに加え、鉱物の形成初期段階で原子・分子が集積していく過程をシミュレーションすることにより、原子プロセスの解析を行ってきました。
最近では,鉱物が溶解したり成長したりする際の結晶/水溶液界面でのpH変化を2次元可視化する試みを行っているほか、鉱物と有機物の相互作用にも目を向け始めました。これらにより、無機的な成長とバイオミネラリゼーションを結び付け、生体鉱物形成において生物が果たしている役割を物理化学的に理解することが大きな目的です。

代表的な研究業績

The Effect of Mg2+ Incorporation on the Structure of Calcium Carbonate Clusters: Investigation by the Anharmonic Downward Distortion Following Method, J. Kawano, S. Maeda, and T. Nagai, Phys. Chem. Chem. Phys., 2016, 18, 2690-2698.
Incorporation of Mg2+ in surface Ca2+ sites of aragonite: an ab initio study, J. Kawano, H. Sakuma, and T. Nagai, Prog. Earth Plan. Sci., 2015, 2:7.
Precipitation diagram of calcium carbonate polymorphs: its construction and significance. J. Kawano, A. Miyake, N. Shimobayashi, M. and Kitamura, J. Phys.: Condens. Matter, 2009, 21, 425012.
Molecular dynamics simulation of the rotational order–disorder phase transition in calcite. J. Kawano, A. Miyake, N. Shimobayashi, and M. Kitamura. J. Phys.: Condens. Matter, 2009, 21, 095406.
Formation process of calcium carbonate from highly supersaturated solution, J. Kawano, N. Shimobayashi, M. Kitamura, K. Shinoda, and N. Aikawa, J. Cryst. Growth, 2002, 237-239(1), 419-423.

関連産業分野

材料科学, 結晶工学, 環境科学, 農芸化学
学位博士(理学)
学歴・職歴1998年 京都大学理学部卒業
2000年 京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻修士課程修了
2003年 京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻博士後期修了
2003-2005年 京都大学大学院理学研究科講師(研究機関研究員)
2005-2007年 山梨県立宝石美術専門学校 講師
2007-2010年 全国宝石学協会技術研究室 研究員
2010-2011年 九州大学応用力学研究所 学術研究員
2011年 九州大学応用力学研究所 特任助教
2011-2016年 北海道大学創成研究機構  特任助教
2016-   現職
所属学会日本鉱物科学会, 結晶成長学会, 分子シミュレーション研究会, Mineralogical Society of America, 応用物理学会
居室理学部6号館 6-8-04号室

地球惑星科学部門 地球惑星システム科学分野

川野 潤

准教授

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いま没頭している研究テーマは何ですか?

鉱物の形成メカニズムに興味があり、最近は水溶液中で鉱物が溶解・成長する際のpHやイオン濃度分布変化の可視化に取り組んでいます(図)。反応する鉱物周囲の局所的な環境変化を直接観察することで、通常の化学反応式から予想されるものとは異なるイオンの挙動が明らかになってきました。この手法は、水溶液中に溶かした状態で光をあてると、イオン濃度の違いによって異なる蛍光を発する試薬を用いており、もともと生物分野の研究で発達してきたものですが、私達は独自に工夫して無機反応への適用を行ってきました。基礎的な鉱物の反応メカニズムの解明につながるだけでなく、それが環境の変化にどのような影響を及ぼしているかを定量的に理解したり、工業材料の反応性を評価することにも役立つと期待しています。

図: 炭酸カルシウムの結晶(方解石)が溶解する際のpH変化
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挑戦されている大きなプロジェクトを紹介してください。

二枚貝などの海洋生物が炭酸カルシウムを主成分とする殻をつくる作用(バイオミネラリゼーション)が、地球環境における二酸化炭素の固定にどのように寄与しているかを明らかにしようとするプロジェクト「炭酸塩パラドックスの解消を目指した炭酸塩生物学」(代表:鈴木道生東京大学教授)に参画しています。従来炭酸カルシウムを作る反応(石灰化)は、カルシウムイオンと重炭酸イオンが反応し、二酸化炭素を放出してpHを低下させるものであり、炭素固定には寄与しないと認識されてきました。しかし、生体内での石灰化では、水素イオンの移動が有機物により制御されることで二酸化炭素を固定化している可能性があると私たちは考えており、実際の石灰化時におけるpH変化を観察した結果もそれを支持しています。そのメカニズムを明らかにすることにより、脱炭素社会に貢献することを目指しています。

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研究室の自慢を教えてください。(スタッフ、学生、論文数、実験装置のことなど)

鉱物とは天然に産する結晶のことを言いますが、結晶に関連した様々な分野と繋がりがあります。私は鉱物の形成や安定性に関する研究を行って学位を取得した後、宝石に関わる専門学校・民間企業で教育・研究に携わりました。その後工学部に移り、太陽電池に用いる結晶の成長に関する理論的研究にも従事しています。現在は、二枚貝や有孔虫、歯や骨といった生物が形成する結晶に注目し、それぞれの分野の研究者と共同研究を進めているほか、結晶形成の一番はじめにどのようなことが起こるかが一貫して興味の対象であり、量子化学分野の先生方と行った分子の重合過程のシミュレーションは今後深めていきたい課題のひとつです。学生さん達の研究テーマも多岐にわたり、新しい分野へのチャレンジを楽しみながら研究を進めています。