研究ニュース

超伝導磁束の液晶状態を発見磁束液晶が作る渦対と渦輪のダイナミクス

【ポイント】

  • 遷移金属ダイカルコゲナイド化合物において量子化磁束の液晶状態を発見。
  • 磁場中でのスメクチック固体―液体転移を観測。
  • 磁束液晶に特有なトポロジカル量子数に期待。

【概要】
北海道大学大学院理学研究院の延兼啓純助教、丹田 聡名誉教授(研究当時:同大学大学院工学研究院)らの研究グループは、2次元層状物質である遷移金属ダイカルコゲナイド化合物に微量の鉄(Fe)原子をインターカレートすることで超伝導磁束の液晶状態とそのダイナミクスの観測に成功しました。

遷移金属ダイカルコゲナイド(MX2: M = Nb, Taなど、X = S, Se, Teなど)は、超伝導と電荷密度波が競合または共存している物質群として、1970年代より研究が進められてきました。近年は2004年にノボセロフ博士、ガイム教授らによる単層グラフェンにおける量子ホール効果の発見(2010年ノーベル物理学賞)を契機として、原子層デバイスにおける新奇物性探索が世界的に流行しています。
また測定技術の進歩により、2021年には2次元層状物質NbSe2におけるクーパー対密度波と電荷密度波の共存も報告されました。以上のようにMX2系(2次元層状物質)は基礎研究からデバイス応用までの垣根が低いことが特徴と言えます。

本研究では、NbS2(超伝導転移温度5K)に鉄を0.08%の組成比で封入したFe0.08%-NbS2単結晶を作成し、その超伝導特性を調べました。鉄原子が層間に侵入すると、通常は超伝導が抑制されますが、興味深いことに超伝導の転移温度や上部臨界磁場が鉄を含まない試料よりも高い、つまり超伝導がより増強されることを発見しました。さらに、磁場中で磁束が固体と液体の中間状態である液晶になっていることを発見しました。これまでにMX2物質群で磁束液晶に関する報告はなく、超伝導の発現機構の解明や磁束液晶状態を利用したナノスケールデバイス研究への発展が期待されます。

なお、本研究成果は、2024年5月2日(木)公開のPhysical Review B誌に掲載されました。

論文名:Dynamics of liquid crystal vortex in a layered superconductor(層状超伝導体における磁束液晶のダイナミクス)
URL:https://doi.org/10.1103/PhysRevB.109.174505

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