研究者情報

中村 英人

助教

NAKAMURA Hideto

分子の目で地層の記憶を覗き込む

地球惑星科学部門 地球惑星システム科学分野

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研究テーマ

堆積物中の有機分子に着目して地球生命史・環境変動史を読み解く

研究分野有機地球化学, 分子地球生物学, 古植物学
キーワード分子化石, 陸上生態系, 微細藻類, 古環境指標の開発, 古環境復元, 絶滅生物の分子化石(古天然物化学), 生合成系の進化とその地質学的証拠

研究紹介

地球史を通じて生物が作り出した有機物は、その一部が分解を免れて地圏に保存されています。中でも、起源生物を特定できる特徴を持つ化合物はバイオマーカー(分子化石)と呼ばれ、化石に保存されにくい生物を含めた過去の生態系の進化や多様性変動を読み解く有力な手がかりとなります。私たちは、特に植物や藻類に由来する脂質分子に着目し、種組成、環境、堆積や保存の過程がどのように分子組成に反映されるのかを調べ、その結果をもとに、分子化石を用いた地球生命史・環境変動史の復元に取り組んでいます。

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分子化石に記録された古植生・古環境情報
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GC-MS分析の様子。結果が楽しみ!

代表的な研究業績

Large igneous province activity drives oceanic anoxic event 2 environmental change across eastern Asia, R. Takashima, D. Selby, T. Yamanaka, Y. Kuwahara, H. Nakamura, K. Sawada, M. A. Ikeda, T. Ando, K. Hayashi, M. Nishida, T. Usami, D. Kameyama, H. Nishi, A. Kuroyanagi and B. R. Gyawali, Communications Earth & Environment, 2024, 5, Article number 85 (2024).
Plant-derived triterpenoid biomarkers and their applications in paleoenvironmental reconstructions: chemotaxonomy, geological alteration, and vegetation reconstruction, H. Nakamura, Researches in Organic Geochemistry, 2019,
Novel alkenone-producing strains of genus Isochrysis (Haptophyta) isolated from Canadian saline lakes show temperature sensitivity of alkenones and alkenoates, H. Araie*, H. Nakamura*, J. L. Toney, H. A. Haig, J. Plancq, T. Shiratori, P. R. Leavitt, O. Seki, K. Ishida, K. Sawada, I. Suzuki and Y. Shiraiwa (*equal contribution), Organic Geochemistry, 2018, 121, 89-103.
Long chain alkenes, alkenones and alkenoates produced by the haptophyte alga Chrysotila lamellosa CCMP1307 isolated from a salt marsh, H. Nakamura, K. Sawada, H. Araie, I. Suzuki and Y. Shiraiwa, Organic Geochemistry, 2014, 66, 90-97.
Aliphatic and aromatic terpenoid biomarkers in Cretaceous and Paleogene angiosperm fossils from Japan, H. Nakamura, K. Sawada and M. Takahashi, Organic Geochemistry, 2010, 41, 975-980

関連産業分野

地質調査, 石油・天然ガス探査
学位博士(理学)
自己紹介

札幌生まれの京都育ちです。趣味は篠笛演奏や写真撮影。陸上生態系のお仲間である植物たちに勝手に愛着を抱いています。今のところ言語での交流は難しいので、化石や分子から彼らの歴史を紐解く日々です。好きな野菜はカブです。

学歴・職歴2006年 北海道大学理学部地球科学科 卒業
2008年 北海道大学大学院理学院自然史科学専攻 修士課程修了
2011年 北海道大学大学院理学院自然史科学専攻 博士後期課程修了
2011-2016年 北海道大学大学院理学研究院/JST CREST 博士研究員
2016-2021年 大阪市立大学(現大阪公立大学)大学院理学研究科 特任講師
2021年- 現職
所属学会日本地質学会, 日本地球化学会, 日本有機地球化学会, 日本地球惑星科学連合, 地球環境史学会, 日本植生史学会
居室理学部6号館 6-904号室

地球惑星科学部門 地球惑星システム科学分野

中村 英人

助教

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研究を通して叶えたい夢は何ですか?

分子化石を通じて地質時代の生態系の姿とその変遷を鮮明に描き出すことが私の夢です。堆積物中の有機物から古環境情報を読み解く手法の開発は容易ではありませんが、生体成分の分析から地質試料の研究まで、他分野の研究者と協力しながら様々なアプローチで取り組んでいます。特に心躍るのは、未同定化合物から絶滅分類群由来の特異な分子化石を発見し、過去の生態系と失われた生合成系の謎に迫れる可能性です。この挑戦を通じて、地球生命史の理解を深め、人類の自然観の構築に貢献したいと考えています。

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研究者になったきっかけは何ですか?

小さな頃から、魚釣りや植物観察、鉱物採集など、自然に対する好奇心が旺盛でした。振り返ると、この頃の経験が理学の分野に興味を持つきっかけになったのかもしれません。興味の対象がすぐに変わる傾向もありましたが、学士課程で地球科学を幅広く学び、修士過程で専門性を掘り下げていくうちに、不思議と飽きがこなくなりました。知識が深まるにつれ、世界がより複雑で魅力的に感じられるようになったこと、自身で興味のあることを探究する技術を身につけたからこその変化だと思います。研究活動には得意な面も苦手な面もありますが、その奥深さに惹かれ、挑戦し続けたいと思いました。

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得意なこと、⼤好きなこと、趣味、⽇課を教えてください。

日々の楽しみとして、コンピューター、スマホ、カメラから研究装置まで、最新技術の情報を追いかけ、新機能や便利な使い方を試すことにはまっています。純粋な興味から始めたことが、思いがけず研究にも役立つスキルに繋がっています。「弘法筆を選ばず」と言いますが、実は弘法大師も状況に応じて適切な道具を選んでいたそうです。良い道具とその使い方を知ることで、研究が加速することもあります。長年続けている篠笛の演奏や音楽制作も、創造性や集中力を育んでくれ、単なる気分転換を越えた効果を感じています。こうして、趣味と研究が相乗効果を生み出しているのは、本当にラッキーだなと感じています。

研究対象からインスピレーションを得た3Dプリント実験治具(左)とアクセサリー(右)。趣味の創作活動の一環として制作。