研究者情報

伊藤 秀臣

准教授

ITO Hidetaka

動く遺伝子トランスポゾンと適応進化

生物科学部門 形態機能学分野

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研究テーマ

植物における動く遺伝子トランスポゾンの制御機構

研究分野分子遺伝学, 遺伝・ゲノム動態, 植物生理学
キーワードトランスポゾン, 環境ストレス, エピジェネティクス

研究紹介

環境ストレスが植物に与える影響について「ゲノム構造の変化と環境適応」いう側面から研究を行っています。具体的には環境ストレスと植物ゲノム内に存在するトランスポゾン活性の制御機構の研究を行っています。生物界においてトランスポゾンはゲノム内の大部分を占める構成要素でありゲノム構造を変化させる強力な要素と考えられます。トランスポゾンの転移はゲノム進化の要因となるが宿主ゲノムにとっては有害となる場合が多いため現在までに報告されているほとんどのトランスポゾン配列はDNAのメチル化やヒストン修飾により活性が抑制されています。しかしながら自然界ではそれらのトランスポゾン配列は多くの生物種のゲノム内に広く拡散しており、いつどのようにして拡散したのかという疑問に対する明確な答えは得られていません。また遺伝子内や近傍に挿入されたトランスポゾンはその遺伝子の発現を変化させることが報告されています。これらのことからトランスポゾンはゲノム構造や遺伝子発現を変化させることで生物種の進化の大きな原動力となってきたと考えられます。環境ストレスは遺伝子やトランスポゾン配列のエピジェネティックな修飾に影響を与えることが報告されています。このことは、環境ストレスによって活性化されたトランスポゾン配列がゲノム構造の変化、遺伝子発現の変化をもたらし、その結果環境適応能力を獲得した個体を生み出してきたと考えることができます。この仮説を検証するため植物においてストレス条件下で活性化するようなトランスポゾンとそれを制御する遺伝子に焦点を当て研究しています。実際に環境ストレスにより活性化されるトランスポゾンがゲノム構造の変化、遺伝子発現の変化をもたらし、その結果ストレス耐性のある個体が得られればトランスポゾンが植物の環境適応に重要な役割を果たしているということを実証することができると考えています。

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多くの生物種に存在するトランスポゾンは近年生物学的な重要性が明らかになってきました。 ヘテロクロマチンに複数存在するトランスポゾン配列はゲノムの安定性に関わっていると考えられています。また、遺伝子の近傍に挿入されたトランスポゾンは その遺伝子の発現をコントロールするという報告もあります。トランスポゾンの多くは通常DNAのメチル化やヒストン修飾などにより活性が抑制された状態に ありますが、ある条件下では抑制が解除され転写、転移が活性化します。私はシロイヌナズナを材料にトランスポゾンがどのような環境下で活性化するのかとい うことに興味を持って研究を行っています。

代表的な研究業績

Ito H, Gaubert H, Bucher E, Mirouze M, Vaillant I, Paszkowski J: An siRNA pathway prevents transgenerational retrotransposition in plants subjected to stress. Nature. 472: 115-119 (2011).
Ito H, Kim JM, Matsunaga W, Saze H, Matsui A, Endo TA, Harukawa Y, Takagi H, Yaegashi H, Masuta Y, Masuda S, Ishida J, Tanaka M, Takahashi S, Morosawa T, Toyoda T, Kakutani T, Kato A, Seki M. A stress-Activated Transposon in Arabidopsis Induces transgenerational Abscisic Acid Insensitivity. Scientific Reports.
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学位博士(農学)
自己紹介

北海道出身。趣味はテニスとスキー。

学歴・職歴京都大学 農学部生物生産科学科卒業
京都大学大学院 農学研究科博士課程修了、学位取得 博士(農学)
国立遺伝学研究所 育種遺伝部門 研究員
スイス連邦ジュネーブ大学植物遺伝学研究室 博士研究員
2011年10月~2015年3月 JSTさきがけ研究員兼任
所属学会日本遺伝学会, 日本植物生理学会, 日本育種学会
プロジェクト文部科学省新学術領域研究「環境記憶統合」
居室理学部5号館 5-7-07号室