研究者情報

小川 宏人

教授

OGAWA Hiroto

感覚入力から運動出力までの全神経演算過程の完全記述を目指して

生物科学部門 行動神経生物学分野

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研究テーマ

行動解析・電気生理学・光学イメージングによる昆虫の感覚情報処理と運動制御機構の解明

研究分野神経生物学, 神経生理学, 神経行動学, 脳活動の光学計測
キーワードニューロン, 神経回路, 脳, シナプス, 樹状突起, 感覚情報処理, 運動制御, コーディング, コオロギ, カルシウムイメージング, 気流感覚, 聴覚, 多感覚統合, 逃避行動, 音源定位, ナビゲーション

研究紹介

動物は脳神経系で外部環境を感覚入力に基づいて知覚し,どのように行動するかを判断(意思決定)して実行します。ごく単純な反射運動を除けば,ある行動について刺激の受容から中枢での情報処理,運動制御にいたる神経機構を完全に解明した研究はほとんどありません。私たちの研究室では,コオロギの気流刺誘発性逃避行動と,音源定位行動をモデルとして<写真「フタホシコオロギ」参照>, “入口から出口まで”の神経回路とその情報処理内容の完全記述を目指しています。
研究手法には,主に電気生理学と光学計測(イメージング)を用います。特にイメージングは,1個のニューロンの局所領域の活動を可視化したり,脳内の神経活動の時空間パターンを解析したりするのに非常に強力なツールです<写真「光学計測装置」参照>。この2つの手法を柱として,バーチャルリアリティ(VR)で環境を人為的に操作したり,トレッドミルや高速度カメラで運動を同時計測したりして,脳神経システムの情報処理や計算アルゴリズムの解明を試みます<写真「トレッドミル計測装置」参照>。さらに機械学習による神経活動のデコーディング解析にも取り組んでいます。
コオロギは尾部に一対の尾葉と呼ばれる気流感覚器官を持ち,気流を受容する感覚毛からの入力は最終腹部神経節内の巨大介在ニューロン群(GIs)によって処理されます<写真「巨大介在ニューロンと求心性感覚神経」参照>。GIsは1次感覚ニューロンから気流の方向や周波数の情報を抽出して脳などの上位中枢に伝達すると考えられています。私達はこれまでに,GIsの方向選択性<写真「巨大介在ニューロンの方向選択性」参照>とそれを形作るシナプス入力統合過程を明らかにしてきました<写真「光学計測した巨大介在ニューロンのカルシウム応答」参照>。また,気流刺激で生じる逃避行動が聴覚刺激で修飾されるメカニズムや,行動選択(走って逃げるか,ジャンプして逃げるか)の意思決定機構の解明にも取り組んでいます。
メスコオロギはオスの鳴き声(誘引歌)に対して近づいていく「音源定位」行動を示します。この行動は神経行動学の古典的なテーマとして古くから研究されてきましたが,歌の聞こえてくる方位がどのように表現されるのか,さらにその方位情報に基づいてどのように歩行運動が制御されているのかについては謎に包まれたままです。私達は防音ルーム内に作った実験アリーナで計測した音源定位行動を定量的に解析し,その行動がいくつかのフェイズから構成されていることを明らかにしました。今後,トレッドミル上で音環境を再現した聴覚VR環境下で定位中のコオロギの脳活動を電気生理学やイメージングで計測して,音源方位表現と音源定位を実行する神経メカニズムを明らかにします。

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フタホシコオロギのオス(右)とメス(左)
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光学計測装置
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トレッドミル計測装置
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巨大介在ニューロンと求心性感覚神経
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コオロギ気流応答性巨大介在ニューロンの方向選択性
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光学計測した巨大介在ニューロンのカルシウム応答

代表的な研究業績

Multisensory enhancement of burst activity in an insect auditory neuron, Someya M, Ogawa H, J. Neurophysiol., 2018, 120:139-148.
Crickets alter wind-elicited escape strategies depending on acoustic context, Fukutomi M, Ogawa H, 2017, Sci. Pep., 7: 15158.
Post-molting development of wind-elicited escape behavior in the cricket, Sato N, Shidara H, Ogawa H, 2017, J. Insect Physiol., 103:36-46.
Direction-specific adaptation in neuronal and behavioral responses of an insect mechanosensory system, Ogawa H, OKa K, 2015, J. Neurosci., 35:11644-11655.
Dendritic design implements algorism for extraction of sensory information, Ogawa H, Cummins GI, Jacobs GA, Oka K, 2008, J. Neurosci. 28: 4592-4603.
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学位博士(理学)
自己紹介

兵庫県出身。趣味:ドライブ,テニス,スキー,実験装置の工作。

学歴・職歴1992年 3月 岡山大学大学院自然科学研究科修了 博士(理学)(岡山大学)
1992年 4月 株式会社富士通研究所 研究員
1995年 2月 科学技術振興事業団 創造科学推進事業 河内微小流動プロジェクト 研究員
1997年10月 埼玉医科大学医学部生物学教室 講師
2002年4月〜2003年3月 米国モンタナ州立大学 Visiting Research Assistant Professor
2008年10月 北海道大学大学院理学研究院 准教授
2009年10月〜2013年3月 JSTさきがけ「脳情報の解読と制御」研究者 兼任
2016年4月 北海道大学大学院理学研究院 教授
所属学会Society for Neuroscience(北米神経科学会), 日本神経科学会, 日本動物学会, 日本比較生理生化学会, 日本生物物理学会
プロジェクト科研費新学術領域「生物ナビゲーションのシステム科学」
居室理学部5号館高層棟 5-1014室