研究者情報

稲津 將

教授

INATSU Masaru

寒冷地気象学の新天地を拓く

地球惑星科学部門 地球惑星ダイナミクス分野

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研究テーマ

国際社会で寒冷域気象学をリードし、その研究成果を社会に還元する。

研究分野気象力学, 応用気象学, 雪氷気象学
キーワード温帯低気圧, ジェット気流, 地域気候, 気象シミュレーション, 天気図解析, 吹雪・雪崩・凍土, 数理科学と気象

研究紹介

中緯度海面水温が温帯低気圧活動に果たす役割について、気象力学の観点から研究を進めてきた。中緯度海洋の大気応答に対する研究上の困難が指摘されていた頃、応募者は中緯度海面水温分布が気候学的な低気圧活動分布と結びつくことを示し、2005年度日本気象学会山本・正野論文賞を受賞した。
また、東シナ海における海洋前線が梅雨に与える影響を共同研究により明らかにした 。これらは当分野における研究の再活発化に貢献した。 温帯低気圧個々の挙動は社会的にも着目される。しかしながら、従来型の低気圧追跡アルゴリズムはどれも場当たり的で、当該分野に発展をもたらすものとは言い難かった。 そこで、2009年に斬新かつ明晰な追跡法を提案し、低気圧の分裂・併合、および領域内の運動量・熱の輸送の定量化に成功した。
なお、この手法は他の追跡法と遜色ない性能であり、他分野での利用もなされつつある[39]。 2010年頃から、気象学における従来の力学系理論の枠を超えた予測理論の構築を目指してきた。気象学に対する低次元力学系の援用が下火になっている状況に突破口を拓くため、数学者を約2年間、雇用し、非線形決定論的方程式の低次元化と確率過程による表現の関連を考察した。その結果を気象学に取り込むことで、現業アンサンブル予報の予報スプレッドが、解析データより統計的に見積もった確率微分方程式の拡散テンソルノルムと対応することを発見した。さらに、熱帯のマッデン・ジュリアン振動の予測可能性も同様の枠組みで議論した。
気象学の本質であるスケール間相互作用研究はさまざまなアプローチがある。全球モデルと領域モデルを双方向に結合した双方向ネストシステムを完成させ、同システムを使って、熱帯における降水分布と夏季アジアモンスーンの再現性を向上させることを示した(2012年度日本気象学会気象集誌論文賞受賞)。
その後、同システムを各所への適用を試みる中で、しばしば計算安定性の問題に研究が阻まれた。そこで、領域モデルを活用する方法に切り替えた。例えば、海面水温の上昇に伴い、個々の台風は強化されるが、その経路にどのような影響を及ぼされるかは議論がある。領域モデルと全球線形モデルを巧みに利用することで、強化された台風が台風自身をより北へ進ませようとすることを明らかにした。
2010年より文部科学省受託研究において、北海道を対象とした地域詳細化計算を分担し、その成果をウェブ上に公開した。また、その結果を使った影響評価研究も共同研究の形で積極的に実施した。例えば、道東の凍土はジャガイモ栽培に重要だが、気候変動に伴う温度上昇で凍土が維持できなくなることを議論した。
これは降雪をもたらす温帯低気圧の通過経路の変化と関連があり、決して自明ではない。同様に、防災の観点からシミュレーションにより雪質変質も議論した。さらに、応用研究に理学的なセンスを取り込むことで新たな提案もしてきた。とくに、計算負荷が高い力学的ダウンスケーリングの計算量を低減する方法を開発した点や、気候変動適応研究には年代ベースではなく温度上昇ベースで議論することを提案した点は特筆できる。さらに、国際支援にも協力してきた。JICA/JST研究プロジェクトでは、ガーナ共和国における気候情報を提供した。また、中国華北における冬小麦の生産高の見積もりにも貢献した。

代表的な研究業績

Ichikawa, Y., and M. Inatsu, 2016: Methods to evaluate prediction skill in the Madden-Julian Oscillation phase space. Journal of the Meteorological Society of Japan, 94, 257-267.
Inatsu, M., J. Tominaga, Y. Katsuyama, and T. Hirota, 2016: Soil-frost depth change in eastern Hokkaido under +2 K-world climate scenarios. Scientific Online Letters on the Atmosphere, 153-158.
Katsube, K., and M. Inatsu, 2016: Response of tropical cyclone tracks to sea surface temperature in the western North Pacific. Journal of Climate,29,1955-1975.
Tamaki, Y., M. Inatsu, R. Kuno, and N. Nakano, 2016: Sampling downscaling in summertime precipitation over Hokkaido. Journal of the Meteorological Society of Japan, 94A, 17-26.
Inatsu, M., T. Sato, T. J. Yamada, R. Kuno, S. Sugimoto, M. A. Farukh, Y. N. Pokhrel, and S. Kure, 2015: Multi-GCM by multi-RAM experiments for dynamical downscaling on summertime climate change in Hokkaido. Atmospheric Sciences Letters, 16, 297-304.

関連産業分野

気象予報, 電力, 保険
学位博士(地球環境科学)
学歴・職歴1995年4月: 京都大学 理学部 理学科 入学
1998年3月: 京都大学 理学部 理学科 中退
1998年4月: 北海道大学 大学院地球環境科学研究科 大気海洋圏環境科学専攻修士課程 入学(飛び級)
2000年3月: 北海道大学 大学院地球環境科学研究科 大気海洋圏環境科学専攻修士課程 修了
2000年4月: 北海道大学 大学院地球環境科学研究科 大気海洋圏環境科学専攻博士後期課程 入学
2002年9月: 北海道大学 大学院地球環境科学研究科 大気海洋圏環境科学専攻博士後期課程 修了(短縮)博士(地球環境科学)を取得
2004年4月~ 2005年9月 独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業研究員
2005年10月~2007年3月 国立大学法人東京大学 気候システム研究センター 特任助手
2007年4月~2007年8月 国立大学法人東京大学 気候システム研究センター 特任助教
2007年9月~2017年1月 国立大学法人北海道大学 大学院理学研究院 准教授
所属学会日本気象学会, 日本海洋学会, 日本農業気象学会
プロジェクト文部科学省受託研究 気候変動適応技術社会実装プログラム
居室理学8号館 8-215室
備考

なし