研究者情報

髙木 聖子

講師

TAKAGI Seiko

地球と進化を別った惑星 -金星の謎に迫る-

地球惑星科学部門 宇宙惑星科学分野

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研究テーマ

金星雲に働く物理化学機構と大気動態の理解

研究分野地球惑星科学, 惑星気象学, 超高層物理学
キーワード惑星大気, 惑星探査, 望遠鏡, 惑星科学

研究紹介

なぜ地球は水や生命に満ち溢れた惑星へと進化し、他の惑星はその進化を別ってしまったのでしょうか。生命を育む大気のありようと進化を、他惑星との比較のもとに理解することは、惑星気象研究の中心課題の1つです。衛星と地上望遠鏡による観測を通じてこの問題に取り込みます。
1960年代から金星へ探査機を送り込んだアメリカや旧ソ連の調査によれば、金星は地球と同程度の大きさと質量を持つ一方で、二酸化炭素を主成分とする分厚い大気は地表面で90気圧にも達し、地表面温度は約500度という灼熱の世界です。また、硫酸を主成分とする雲の層(高度40-70 km)と固体微粒子の層(もや層, 70-90 km)が浮かび、金星全球を一様に覆っています。双子惑星と呼ばれる両惑星が、かくも大きく異なる進化を遂げた所以は未だに不明であり、近年、Venus Express(ESA, 2006-2014)やあかつき(図1, JAXA, 2010-)が相次いで金星に送り込まれているところに、金星の謎の深さと重要性に対する科学界の強い認識が現れています。金星の雲形成や維持機構は数十年来の大問題です。過去の探査機観測を元に、硫酸雲の上層は主に光化学、下層は主に大気力学が支配し、互いに物質やエネルギーの交換を行う機構が提案されています。それを実証する観測データ不足により定性的な推論の域を出ていませんが、硫酸雲内部に働く物理・化学的交換過程を3次元的に説明しています。
Venus Expressは、2006年から8年間にわたり、高高度(70-220 km)の大気を極周回軌道から観測しました。私は搭載赤外分光計のデータを解析し、90 km以上の上部もや層の存在や、そこでもやが新たに生成されていることを明らかにしました。また、硫酸雲と2つのもや層を繋ぐ輸送過程や、もやと二酸化硫黄の化学的関係を提案しました。このように、従来は個別に扱われてきた硫酸雲ともや層が、ようやく繋がりをもって考察され始めています。現在あかつきは、紫外から中間赤外の多波長撮像観測により、硫酸雲の3次元的な動きを詳細に捉えようとしています。
本研究の目的は、金星雲の下層からもや層までを繋げた鉛直方向の物理・化学的振る舞いを明らかにすることです。そのために必要な硫酸雲ともや層の同時調査を地上望遠鏡(図2)と探査機との連携相補観測で実現し、雲の構造や周囲との相互作用の理解深化を目指します。

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金星探査機あかつき(JAXA)のイメージ
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ピリカ望遠鏡(名寄市, 北海道大学大学院理学研究院附属天文台に設置)

代表的な研究業績

An uppermost haze layer above 100 km found over Venus by the SOIR instrument onboard Venus Express,
Seiko Takagi, Arnaud Mahieux, Valérie Wilquet, Séverine Robert, Ann Carine Vandaele and Naomoto Iwagami,
Earth, Planets and Space, 71:124, 2019.
Initial products of AKATSUKI 1-µm Camera,
Naomoto Iwagami, Takeshi Sakanoi, George L. Hashimoto, Kenta Sawai, Shoko Ohtsuki, Seiko Takagi, Kazunori Uemizu, Munetaka Ueno, Shingo Kameda, Shin‐ya Murakami, Masato Nakamura, Nobuaki Ishii, Takumi Abe, Takehiko Satoh, Takeshi Imamura, Chikako Hirose, Makoto Suzuki, Naru Hirata, Atsushi Yamazaki, Takao M. Sato, Manabu Yamada, Yukio Yamamoto, Tetsuya Fukuhara, Kazunori Ogohara, Hiroki Ando, Ko‐ichiro Sugiyama, Hiroki Kashimura and Toru Kouyama,
Earth, Planets and Space, 2018. 
Large stationary gravity wave in the atmosphere of Venus,
T. Fukuhara, M. Futaguchi, G. L. Hashimoto, T. Horinouchi, T. Imamura, N. Iwagaimi, T. Kouyama, S. Murakami, M. Nakamura, K. Ogohara, M. Sato, T. M. Sato, M. Suzuki, M. Taguchi, S. Takagi, M. Ueno, S. Watanabe, M. Yamada, and A. Yamazaki,
Nature Geoscience 10, 85-88, 2017.
Contrast sources for the images taken by the Venus missions AKATSUKI,
Seiko Takagi and Naomoto Iwagami,
Earth, Planets and Space 63(5) 435-442, 2011.
Science requirements and description of the 1-μm camera onboard the Akatsuki Venus Orbiter,
Naomoto Iwagami, Seiko Takagi, Munetaka Ueno, Shoko Ohtsuki, Takeshi Sakanoi and George L.Hashimoto,
Earth, Planets and Space  63(6) 487-492, 2011.
学位博士(理学)
自己紹介

アメリカ生まれ、東京育ちです。6歳からピアノ、10歳からオーケストラでバイオリンを続けています。体を動かすことも大好きです。水泳とテニスは再開しようか考え中。

学歴・職歴2008年 北海道大学理学部地球物理学科 卒業
2010年 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 修士課程 修了
2014年 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 博士課程 修了
2014-2017年 東海大学 特定研究員
2017-2022年 北海道大学 大学院理学研究院 特任助教
2022年- 現職
所属学会日本地球惑星科学連合(JpGU), 地球電磁気・地球惑星圏学会(SGEPSS), アメリカ地球物理学連合(AGU), 欧州地球科学連合(EGU), 気象学会
プロジェクト「大学間連携による光・赤外線天文学研究教育拠点のネットワーク構築」事業
金星探査機あかつき
居室理学部8号館 8-210

地球惑星科学部門 宇宙惑星科学分野

髙木 聖子

講師

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研究に行詰まったらどんなことをしますか?

とりあえず立って歩きます。部屋の中をウロウロしたり近所を散歩したり。問題点を頭の片隅に置きつつもリラックスすることで、解決の糸口にふと出会えたりするものです。

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研究者になったきっかけは何ですか?

「父のようになりたい」と思ったことです。
淡々と冷静に仕事をこなす一方、遊びも大切にする姿を見て育ち、自然と「博士」に憧れるようになりました。そんな父にNASAに遊びに連れて行ってもらったことがきっかけで漠然と宇宙に興味を持ち、異なる分野の研究者になりましたが、尊敬する気持ちは今もこれからも変わりません。

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得意なこと、大好きなこと、趣味、日課を教えてください。

ピアノ・オーケストラ・水泳・テニスなど、小さい頃から続けていたことは今でも変わらず好きですが、大人になってビールが好きになりました。大学院生の頃に、ブリュッセルの研究機関に数ヶ月滞在した時、研究室から帰って来て家で飲むベルギービールが最高に美味しく、「今日も頑張ってよかった」と毎日噛みしめていました。一体何の研究をしに行ったのかと思うほど毎日真剣に飲んでいましたが、その時の研究が実を結び、帰国して博士号を取得できた良い思い出です。