研究ニュース

生物の発生パターンを記述する数理手法の確立生物の発生現象等に応用が可能

【ポイント】

  • 空間離散モデルをその基本的な性質を変えないまま空間連続モデルに変換(置換)する方法、及び適当な重み関数との積分付きの積分方程式に近似する方法を開発した。
  • ハエの脳の発生で分化を制御するDelta-Notchの相互作用に対する生物実験から、実際の生命現象における連続化に必要な重み関数の形状を明らかにした。
  • 空間離散モデルに連続モデルの解析手法や、数理モデリングの手法が適用可能となり、生物の発生現象等、様々な現象の理解に応用が期待できる。

【概要】
公立はこだて未来大学の田中吉太郎准教授と金沢大学の八杉徹雄准教授、佐藤純教授、北海道大学の栄伸一郎教授らの共同研究グループは、数学的な理論と、生物実験の結果を融合させて、細胞の大きさと形状などの離散的な情報を保存したまま数式化する数理モデリングの方法を確立することに成功しました。この方法を用いることで多細胞生物の発生等の離散構造上の現象に対して理論的な解析を進めたり、新たな数理モデリングを行うことが期待できます。

(背景)
多細胞生物の発生現象は、様々な細胞間相互作用によって制御されています。近年、数理モデリングの手法を用いて細胞間相互作用と、発生パターンを理解する研究が進んできました。このような生命現象の仕組みを調べるのに、空間方向の変数が離散量である数理モデルが提案されます。この空間離散モデルは、一般に離散構造上の現象に対する再現性がよく、生物実験と相性が良いことが知られています。一方で、この空間離散モデルを解析しようとすると、困難なことが多いという問題点があります。例えば、従来の方法では、細胞や格子の大きさを0に限りなく近づけて、連続化する方法が取られますが、この方法では、離散構造が消えてしまうことがあり、うまく機能しない問題点がありました。

(研究手法)
本研究では、積分論で用いられる特性関数と平行移動の考え方を用いて空間離散モデルを連続化する方法を開発しました。さらに、平行移動の作用素を適当な重み関数との積分で近似し、空間離散モデルを積分方程式で近似しました。この重み関数に細胞や格子の大きさと形状が直接反映されます。
また、実験的に扱いやすく、比較的単純な作りのハエの脳を対象に、大きさと形状が不均一な細胞群での
Delta-Notch相互作用に対する重み関数の形状を実験的に調べました。

(研究成果)
本連続化法により、同値変形で空間離散モデルを連続化することができます。さらに、適当な重み関数との積分をもつ積分方程式が空間離散モデルを近似することを理論的に明らかにしました。本手法では、様々な一様格子に対する重み関数の形状を理論的に導出することができます。
またハエの脳の発生過程を観察し、非一様な形状、大きさの細胞群に対する重み関数の形状が円環型で表せることを実験的に明らかにしました。この重み関数を用いることで、空間離散モデルを球面上に拡張したり、細胞分裂や細胞成長などのモデリングを行うことが可能となります。

(今後の展望)
本手法を適用することで生物の発生現象等の離散構造上のダイナミクスを連続モデルとして扱うことができ、連続モデルに対する解析方法や数理モデリングの方法を適用することができます。さらに非一様な格子上のダイナミクスも数理モデル化することができます。本研究で開発した連続化の手法や数理モデリング方法は、様々な多細胞生物の発生現象に応用できます。理論的にも実験的にも新たな知見を生み出すことに貢献できるものと期待できます。

 

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