研究者情報

大津 珠子

准教授

OHTSU Shuko

科学技術と社会の橋渡しとソーシャルデザインの実践

広報企画推進室

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研究テーマ

科学技術をめぐり、社会と専門家の双方向的なコミュニケーションをデザインし、市民に科学技術の光と影、それを考えるきっかけづくりの開拓

研究分野科学技術コミュニケーション, グラフィックデザイン
キーワード科学技術コミュニケーション, グラフィックデザイン, 情報デザイン, プレゼンテーション, 研究アウトリーチ, 研究広報, 市民の立場から生殖補助医療を考える

研究紹介

私たちは2011年3月11日の東日本大震災をはじめ、自然災害や感染症、地政学的緊張といった、予測の難しい事象に幾度となく直面してきました。近年では新型コロナウイルスのパンデミック、能登半島地震、ロシアによるウクライナ侵攻などが、私たちの暮らしや価値観を根底から揺さぶりました。加えて、生成AIに代表される人工知能の飛躍的な進歩は、人間の営みの在り方に新たな問いを突きつけています。

その一方で、世界は分断の兆しを強め、自国中心主義の傾向が顕著になってきました。しかし、こうした時代だからこそ、科学は国境や宗教、人種を越えて共有される「共通言語」であるという事実が、かえって鮮明になりつつあります。科学は人間の営みに深く根差し、未来を創るための希望の基盤となり得るのです。

震災以降、私たちは科学技術に対する信頼のあり方を見直し、「誰のための、何のための科学なのか」を問い直すようになりました。物質的・経済的な豊かさだけでなく、人間らしく、持続可能な社会をどう築くか。その社会的な意思決定の場には、専門家だけでなく市民の参画が不可欠となっています。

しかし、科学の力だけでは答えが出せない問いもあります。たとえば出生前診断や環境倫理、ジェンダー、資源配分の問題など、価値観や倫理が交錯する領域——それらは「トランスサイエンス」と呼ばれ、科学と社会、個人の思いや哲学が交わる場です。

私は、こうした複雑で正解のない問いにこそ向き合い、対話を重ねながら、未来をより良くしていく道を模索したいと考えています。それは「ソーシャルグッド」な活動であり、科学と社会をつなぐ「知のデザイン」の挑戦です。そして何よりも、自然や生命の深層に迫る知の営み——そしてそれを見つめ直す哲学、倫理学、美学の重要性は、むしろ今後ますます強まると確信しています。科学技術は私たちの暮らしを豊かにするだけでなく、人間とは何かを深く問い直すきっかけを与えてくれるものです。科学と人文学、そして市民との協働。それらをつなぐ橋を架け続けることが、私の実践の中心にあります。

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異分野の研究者が集まったTシャツデザインワークショップ
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異分野の研究者が集まったTシャツデザインワークショップ。右は故渡辺保史。
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生殖補助医療を考えるサイエンスカフェ
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生殖補助医療を考えるサイエンスカフェ。ゲストは石井哲也北海道大学教授
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Belle2実験のプロモーションビデオの撮影。中央は村山斉元IPMU機構長
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Belle2測定器をSuperKEKB加速器にインストールする様子を中継するアウトリーチ活動

代表的な研究業績

生命と科学「開かれた市民対話育もう」石井哲也、大津珠子(【寄稿】 朝日新聞 朝日新聞朝刊(私の視点) 2015年2月7日)
An Examination of the Implementation of a Science Cafe : Regarding Non-Invasive Prenatal Genetic Testing, ISHII Tetsuya, OHTSU Schuko. 2014, 15, 59-71 Japanese Journal of Science Communication https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/56437/1/web_Costep15_59.pdf
科学者は「監」られている――若手研究者が語る大学の現在:秋山正和、片瀬貴義、相馬雅代、石村源生、大津珠子、津田一郎、中垣俊之、尾関章『WEBRONZA 科学者討論@北海道大学』https://webronza.asahi.com/science/articles/2016010900001.html
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学位デザイン学(修士)
自己紹介

筑波大学大学院在籍中より、フリーランスのグラフィックデザイナーとして筑波研究学園都市を拠点に活動。大学、研究機関、自治体の広報・デザインを多数手がける。2005年、北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット(CoSTEP)第1期から教育スタッフとして参画し、以来、科学技術コミュニケーション教育、グラフィックデザイン教育に従事してきた。常に“手段としてのデザイン”と“目的としてのデザイン”を行ったり来たりしている。盛岡出身。テニス、スキー、ボード、スキューバーダイビング、茶道、囲碁、料理など広く浅く興味をもってしまうが上達はしない。囲碁はけっこうできます。遠い将来の夢はマルチハビテーションの実現。

学歴・職歴1995年:筑波大学第三学群社会工学類(都市計画専攻)卒業
1997年12月:大津総合環境デザイン研究室設立(個人事業)
1998年:筑波大学大学院修士課程芸術研究科環境デザイン分野修了
2005年10月〜2016年3月:北海道大学CoSTEP
2016年4月〜2017年11月:高エネルギー加速器研究機構
2017年11月〜2018年3月:国立情報学研究所
2018年5月〜現在:北海道大学理学研究院
2015年度:グッドデザイン賞(公益財団法人日本デザイン振興会主催)
2014年度:文部科学大臣表彰 科学技術賞(科学技術コミュニケーション)
プロジェクト企画・制作した映像「Belle II : Open a window to New Physics」
鈴木-宮浦クロスカップリングとはどのような反応なのか,簡単なアニメーションを制作しました
居室理学部5号館