藤田 知道教授/FUJITA, Tomomichi
1個の受精卵が多細胞生物の出発点です。受精卵が細胞の増殖と分化を正しく繰り返すことで、正しい1個体が形づくられます。これら一連の過程のなかで新しい細胞が生み出されます。では1個の受精卵から、どのように新しい細胞が生み出されるのでしょうか。答えは、1個の細胞にいかに不均衡を作り、いかに非対称な分裂を制御できるのかを解明することで明らかにできそうです。
動物と植物は異なる単細胞生物を起源として進化し、多細胞化してきたと考えられています。新しく細胞を生み出す非対称な分裂のしくみも動物と植物で多くの点が異なっているようです。私達の研究室は、植物細胞の不等分裂の分子機構を明らかにする事により、植物特有の発生の道筋を理解し、動物をもふくめて、多細胞生物発生の多様性や進化的側面について理解を深めようとしています。
地球にはいろいろな植物の姿を見ることができます。どの植物も一次生産者として、私達ヒトをふくむ多くの生き物の命を支えています。しかし私たちは、このような植物のことをまだ十分にわかっていません。植物の発生や形作りはどのようにすすむのでしょうか。また、まわりの環境変化に、どのように応答しているのでしょうか。植物は動物と違い、自ら歩いて動き回ることができません。そのため、植物は独特の応答や発生のしくみを進化させてきたようです。このような植物独自の能力を分子レベルから個体レベルに至るまで理解したい、そして未来に続く動物と植物の共存の道をともに考えていきましょう。
参考文献
- 櫻井英博・柴岡弘郎・高橋陽介・小関良宏・藤田知道(2017)植物生理学概論 改訂版(培風館)
- 藤田知道(2006)植物の生長調節 「ヒメツリガネゴケを用いた植物幹細胞の不等分裂過程の解析-細胞極性形成から娘細胞の運命決定まで-」(植物化学調節学会)41巻 pp.156-162.
- 藤田知道 (2004)植物細胞工学シリーズ20、新版植物ホルモンのシグナル伝達
「植物ホルモンの起源を探る-シダ植物、コケ植物、緑色藻類における植物ホルモンの役割から-」(秀潤社)、pp.233-238.
環境ストレス適応進化
陸上植物は、水中から陸上に5億年近く前に上陸したと考えられています。乾燥、気温変化、紫外線など水中から陸上への厳しい環境変化に適応するため、植物はどのような進化を果たしたのでしょうか。アブシジン酸、細胞間コミュニケーションの進化に着目しこの問題に迫ります。(藤田知道)
閉じる
再生
からだの一部を失ってもまたもとと同じ構造を作り直すものが再生です。動物の中には、からだの一部から新しいからだを持った個体を再生するものもいます。動物に比べて多くの植物は再生能力に優れています。なぜなのでしょうか。その能力は動物にも応用できるのでしょうか。(藤田知道)
閉じる
細胞の不等分裂
1つの細胞は2つの細胞に分裂します。こうしてできた2つの細胞は全く同じ遺伝子を等しく受け継ぎます。しかし多くの場合でこれら2つの細胞はちがう運命を持ちます。このような過程を細胞の不等分裂とよびます。そして不等分裂こそは、動物でも植物でも多細胞生物がさまざまな細胞を作り出すことを可能にした基本原理なのです。(藤田知道)
閉じる
植物ホルモン
植物の成長や環境への応答を調節するホルモンです。植物はこれらホルモンを合成し、受容し、応答するシグナル伝達系を発達させてきました。これらが植物の特徴を知る鍵となります。(藤田知道)
閉じる
全能性
1個の細胞が個体を構成する全ての細胞を生み出す能力のことで、受精卵は全能性を持っています。植物は分化した細胞でも多くのもので全能性を保持しているため、脱分化-再分化により再び個体を形づくる事ができます。動物に比べて植物はなぜ容易に全能性を発現できるのでしょうか。その秘密が知りたい。(藤田知道)
閉じる