理学院長からのメッセージ

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永井理学院長
北海道大学大学院理学院長
永井 隆哉 教授

2023年度がスタートしました。全世界が予期せぬコロナ禍に見舞われて三年が経過しました。この間,ウイルスは感染の波を繰り返し,この感染症の行方は未だ見通せません。一方で,ワクチン接種率の向上,治療法や抗ウイルス薬の開発進展による重症化率や死亡率の低下などもあって,日本政府は,マスクの着用をルールとしてではなく個人の判断に委ねることとし,また,新型コロナの感染症法上の位置づけについても,5月8日に季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行するなど,この感染症との共存に舵を切ります。このコロナ禍の3年間,理学院では制限はあるものの大学院生活の中心を占める研究のアクティビティを下げないよう努めてきました。私たち教職員はそれらの経験を活かし,感染防止対策に引き続き十分留意しながらも,学生の皆さんが充実した大学院生活を送れるようできる限りサポートしていきます。

理学は,自然界に潜む未知なる現象や普遍的な法則を見出し,検証可能な科学的方法でその原理を解き明かそうとする学問です。この高邁な目的は,時として,工学や農学に比べ現実社会との繋がりが希薄な印象を与えるかもしれません。しかし,新しい科学技術の創出は,確固とした科学的原理が理解されてこそ実現可能です。21世紀に入ってからの情報通信技術の進展は社会の急速なグローバル化を促しています。同時に,社会のグローバル化は,人々の考え方や価値観,ライフスタイルにも急激な変化をもたらしています。そしてコロナ禍においてこの流れはさらに加速しているように見えます。このような激しく変化する社会を支える科学技術は,例えば,情報通信は「相対論」や「量子論」なくして創出し得なかった技術です。また,新型コロナウイルスの正体解明やワクチンの開発は「遺伝子の理解」なくして実現不可能です。しかし,「相対論」や「量子論」,「遺伝子の理解」は,初めから前述したような応用を目的として見出された研究成果ではありません。

理学院で何を学ぶか。自身の学習・研究の目的と社会との繋がりを意識することは大切です。しかし敢えて,学生の皆さんには自身の知的好奇心を大切にして欲しい,すなわち,興味を持った自然界の事象をとことん追求し,その原理を解き明かしてくれることを期待しています。同時に,日々の研究活動で「先入観なく問題を見出し,解決の道筋を考える。そして,実験や観察や論理的思考を重ね,合理的な結論を導く。」という習慣を身に着けてください。この科学者としての基本的なルーティーンの習得は,修了後に皆さんがどのようなキャリアに進もうとも重要視される財産となるはずです。

理学院は,数学,物性物理,宇宙理学,自然史科学の4専攻からなり,その対象は,純粋数学の扱う抽象的な空間から,素粒子の極微の世界,極大な宇宙,地球惑星の大気海洋から地下深部,さらには,遺伝子から生態レベルに至る生物進化など広大かつ多様で,魅力に溢れています。また,理学院では自然史科学専攻の中に科学コミュニケーション講座を配し,科学リテラシー教育にも重きを置いています。

博士前期(修士)課程では,理学全般にわたる幅広い素養と理学各分野の専門的な知識やスキルを習得することで,科学的洞察力,論理的思考力及びコミュニケーション能力を涵養し,国際的視野のもとで社会の様々な分野において主導的役割を担いうる人材を育成します。

博士後期課程では,博士前期(修士)課程までに習得した知識やスキルをさらに向上,深化させ,培った高度な科学的洞察力と論理的思考力をもって自然界に潜む未知なる現象や普遍的な法則を見出し,その原理を明らかにする独創的な研究を遂行,成果を国際的に発信できる人材を育成します。

最後に,もしあなたが北海道大学大学院理学院への進学を検討しているのであれば,是非,札幌キャンパスを訪れてみてください。理学院が皆さんの大学院生活にふさわしい場所であることを実感していただけるはずです。

 

令和5年4月 北海道大学大学院理学院長 永井 隆哉