木村 敦教授/KIMURA, Atsushi
高等生物においてゲノムの大部分は遺伝子ではない領域で、多くの場合このような領域は遺伝子の発現を調節する機能を持っており、タンパク質に翻訳されない非コードRNAとして転写される領域も多いです。私たちの研究室ではゲノム機能の解明を目指して研究を行っており、特に生命の連続性を保証するという意味で最重要な生殖におけるゲノム機能を解析しています。具体的に動いているプロジェクトは以下の通りです。
- 哺乳類の精子形成における多機能性ゲノムと長鎖非コードRNAの機能
我々はマウスとヒトの2つの遺伝子座をモデルとした研究によって、dual promoter-enhancerと呼ばれる多機能ゲノム配列と長鎖非コードRNAが、精子形成における転写活性化に重要であることを発見しました。現在はその詳細なメカニズムや生理的意義について研究を行っています。 - マウス卵巣の顆粒膜細胞における転写活性化
卵形成においては卵を囲む顆粒膜細胞が重要であり、顆粒膜細胞では多くの遺伝子が特異的に転写活性化する必要があります。しかし、そのメカニズムはあまりわかっていません。我々は、顆粒膜細胞で高発現する遺伝子の新たな調節因子として新規のエンハンサーや長鎖非コードRNAを同定しており、その詳細について研究を行っています。 - 精巣と胎盤におけるプロテアーゼ機能
生物は多数のプロテアーゼを持っており、多くの生命現象にプロテアーゼが関わることがわかっています。しかし、精子形成と胎盤分化においてはプロテアーゼ機能がよくわかっていないため、研究を行っています。
この研究室では生殖と発生に関わるゲノム機能や遺伝子発現をテーマとして研究を進めています。研究の主体は学生なので、ひとりひとりの学生が自分のデータをいかに注意深く見るかがとても重要です。自分の研究を発展させるためのトレーニングを積むことで、世界に通用する人材になってほしいと考えています。科学研究に興味のある方の来訪をお待ちしています。
参考文献
- 木村敦(2018)研究室紹介 北海道大学 大学院生命科学院 生命システム科学コース 生殖発生科学分野 木村研究室. 比較内分泌学 第44巻165号, p139-140
- 木村敦, 佐藤優衣, 丸山優樹(2018)マウス精巣減数分裂過程の一次精母細胞における転写活性化機構. 比較内分泌学 第44巻164号, p58-62
- Satoh Y., Takei N., Kawamura S., Takahashi N., Kotani T., and Kimura A.P. (2019) A novel testis-specific long noncoding RNA, Tesra, activates the Prss42/Tessp-2 gene during mouse spermatogenesis. Biol. Reprod. 100: 833-848
- Kimura A.P., Yoneda R., Kurihara M., Mayama S., and Matsubara S. (2017) A long noncoding RNA, lncRNA-Amhr2, plays a role in Amhr2 gene activation in mouse ovarian granulosa cells. Endocrinology 158(11): 4105-4121
- Maruyama Y., Matsubara S., and Kimura A.P. (2017) Mouse prolyl oligopeptidase plays a role in trophoblast stem cell differentiation into trophoblast giant cell and spongiotrophoblast. Placenta 53: 8-15
- Kurihara M., Shiraishi A., Satake H., and Kimura A.P. (2014) A conserved noncoding sequence can function as a spermatocyte-specific enhancer and a bidirectional promoter for a ubiquitously expressed gene and a testis-specific long noncoding RNA. J. Mol. Biol. 426: 3069-3093
- Matsubara S., Kurihara M., and Kimura A.P. (2014) A long non-coding RNA transcribed from conserved non-coding sequences contributes to the mouse prolyl oligopeptidase gene activation. J. Biochem. 155(4): 243-256
- Yoneda R., Takahashi T., Matsui H., Takano N., Hasebe Y., Ogiwara K., and Kimura A.P. (2013) Three testis-specific paralogous serine proteases play different roles in murine spermatogenesis and are involved in germ cell survival during meiosis. Biol. Reprod. 88(5): 118, 1-14
遺伝子発現
親から子へ途切れることなく受け継がれる遺伝子は、すべてが同時に機能を発揮しているのではなく、それぞれが適切な時期に、適切な場所で作用する必要があります。形態形成にそのような遺伝子の発現が大きな役割を持っています。(綿引雅昭)
生物の成長や日々の活動はさまざまな遺伝子がはたらくことによって成し遂げられている。遺伝子がはたらくにはmRNAに転写された遺伝子情報からタンパク質が作られることが必要で、この過程を遺伝子発現という。遺伝子によってはタンパク質にならずにRNAのままで機能するものもある。(木村敦)
遺伝物質(DNA)の「情報」を、RNA、タンパク質などを経て、「機能」に転換し、表現されるまでのプロセス。(山崎健一)
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エピジェネティクス
DNA配列は変化せずにクロマチン構造を変化させることによって遺伝子発現を調節すること。通常ヒストンの化学修飾とDNAメチル化の状態のことを指し、これらの修飾によってクロマチンの開き具合(折りたたみの強さ)が変化を受け、その結果遺伝子発現が活性化されたり逆に抑制されたりする。(木村敦)
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クロマチン
非常に長いうえに電荷を帯びているゲノムDNAを細胞核の中に納めるための構造。例えばヒトの場合1つの細胞核の中に約170cmという非常に長いDNAが収められているが、これはヒストンと呼ばれるタンパク質を使ってDNAを規則正しく折りたたむことによって可能になっている。(木村敦)
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ゲノム
ある生物が持つ遺伝情報全体をゲノムと呼び、細胞の核に含まれる染色体DNAのすべてを指します。ゲノムには、タンパク質をコードするための情報を持つ部分、機能的RNAをコードする部分、およびそれらの発現を調節する部分以外に、機能が不明な部分も存在しジャンクDNAと呼ばれています。(加藤敦之)
それぞれの生物が持っている全遺伝情報、言い換えると、細胞が持っている全DNAがゲノムです。これによって生物の形や性質、発生が制御されています。1個の受精卵から細胞分裂で生じた体のすべての細胞は、特殊な例外を除いて受精卵にあったのと同じすべての遺伝情報を持っています。
ある生物が生きていくうえで必要とするすべての情報を含んだDNAの1セットのこと。高等生物の場合その大部分は遺伝子としての働きを持たない領域であり、近年その役割が注目され始めている。(木村敦)
生物の発生、成長、生殖など生物が生きていくために必要とする遺伝情報の全て。あるいは、染色体に含まれる全塩基配列。(吉田磨仁)
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生殖器官
生殖活動を担う生物の器官。脊椎動物ではメスの卵巣・子宮、オスの精巣などがこれにあたり、ほとんどの哺乳類(真獣類)では胎児と母体をつなぐ胎盤も生殖器官である。生殖器官では次世代に命を受け継ぐためのさまざまな戦略が備わっている。(木村敦)
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多機能性ゲノム
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