研究トピックス

ついにガイコツパンダホヤ正体が判明! ~SNS による情報拡散から新種の発見へ

関連教員

【概要】
北海道大学大学院理学院博士後期課程 3 年の長谷川尚弘氏はガイコツパンダホヤが新種のホヤで あることを発見し、指導教員である北海道大学大学院理学研究院の柁原 宏教授との共著論文中で Clavelina クラベリナ ossipandae オシパンダエ という学名を提唱しました。 ホヤの仲間は脊索動物門*1・尾索動物亜門に属し、全世界から約 3000 種、日本国内からは約 300 種が知られています。日本国内のホヤ類の多様性調査は本州沿岸域で充実している一方、南西諸島の ように手つかずの場所も多くあります。 ガイコツパンダホヤは沖縄県久米島に生息することが知られ、体の前端部の白黒模様がジャイアン トパンダを、鰓に走る白い血管がガイコツのあばら骨を彷彿とさせることからその名で呼ばれていま す。2017 年頃にインターネット上でそのユニークな姿が紹介されて以来、テレビ番組等で何度も取 り上げられるほど人気となりました。しかし、ガイコツパンダホヤの正体は不明なままでした。 本研究では、沖縄県久米島周辺の海域で SCUBA ダイビングを用いた調査を行い、ガイコツパンダ ホヤを採集することに成功しました。解剖と系統解析の結果、ガイコツパンダホヤはツツボヤ属に属 する未知の種であることが明らかになりました。新しい学名はガイコツパンダホヤを意味するよう に、ラテン語で「骨の」を意味する ossis と、「パンダの」を意味する pandae を組み合わせて名づけ られました。 なお、本研究成果は 2024 年 2 月 1 日(木)に日本動物分類学会が発行する国際英文誌『Species Diversity』にオンライン掲載されました。

【ポイント】
・メディアに取り上げられてきたガイコツパンダホヤの正式名称が決定。
・形態と DNA の情報を元に、ガイコツパンダホヤを新種 Clavelina ossipandae として記載。
・SNS を通じた情報拡散が新種発見の契機。

左:ガイコツパンダホヤ、右:久米島及びトンバラの位置

 

背景
ガイコツパンダホヤは沖縄県久米島に生息することが知られ、体の前端部の白い部分にある三つの 黒い斑点模様がジャイアントパンダの顔のようであること、胸部の鰓に走る白い血管がガイコツのあ ばら骨を彷彿とさせることからその名で呼ばれています。そのユニークな外見が 2017 年頃に久米島 のダイビングショップのウェブサイト上で紹介されたことを皮切りに、Twitter (現 X)で人気を博し、 NHK や民放各社により何度もテレビ番組で取り上げられるほどになりました。しかし、ガイコツパン ダホヤの正体は不明なままでした。 ホヤというと日本で最も有名なものは、北海道・東北地方で食用にされるマボヤでしょう。実は、 このマボヤ以外にも世界から約 3000 種、日本からは約 300 種が報告されています。ホヤは脊索動物 門・尾索動物亜門に属し、ヒトを含めた脊椎動物とは進化学的に見ると親戚の関係にあります。脊椎 動物の親戚ではありますが、ホヤはオタマジャクシ型幼生*2が大人になるとその場所から動かないで、 死ぬまで海中のプランクトンをろ過するという生活を行います。 ホヤは大型のもので体長数十 cm、小型のものは数 mm 程度になります。ホヤの仲間には、卵と精 子が受精して子孫をつくる有性生殖だけを行う単体性のホヤと、有性生殖を行うとともに体の一部か ら新しいホヤを生みだす無性生殖も可能な群体性のホヤがいます。この体の一部から生み出された新 しいホヤはすべてがクローンで、遺伝的にまったく同じものになります。マボヤは単体性のホヤで、 ガイコツパンダホヤは群体性のホヤになります。 本邦におけるホヤの生物相調査は 150 年以上の歴史がありますが、南西諸島におけるホヤの多様性 調査は本州の沿岸域に比べると少ないという事実があります。今回の研究成果は、沖縄県久米島に分 布するガイコツパンダホヤの正体を探るべく形態観察と系統解析をした結果、本種を新種として公表 したことに関するものです。

【研究手法】
2021 年 3 月に沖縄県久米島の南に位置する通称トンバラと呼ばれるダイビングポイントにて、ガ イコツパンダホヤを徒手で合計 4 群体採集しました。得られた群体は実体顕微鏡下で解剖することで 体内の形態を詳細に観察しました。DNA バーコード*3としてよく用いられるミトコンドリアのチト クロムcオキシダーゼサブユニット(COI)遺伝子の部分配列を決定し、近縁種間における系統的位 置も推定しました。

【研究成果】
形態を詳細に解析した結果、ガイコツパンダホヤはツツボヤ科(Clavelinidae)、ツツボヤ属 (Clavelina)に属する種であることが分かりました。さらに、世界から報告されている本属の既知の 44 種と形態を比較した結果、いずれとも異なる特徴をもつことから未記載種(名前の付いていない 種)であることが明らかになりました。 そこで、「骨の」を意味するラテン語 ossis と、「パンダの」を意味する pandae を組み合わせて本 種を Clavelina ossipandae と名付け、新種として記載しました。DNA の情報を用いた系統解析*4の 結果もガイコツパンダホヤがツツボヤ属に属することを裏付けました(図 1)。今日まで、ツツボヤ類 は日本から 10 種が報告されており、ガイコツパンダホヤは 11 種目になります。また、本研究以前に 久米島のホヤ類に関する学術的な報告はありませんでした。したがって、ガイコツパンダホヤが久米 島のホヤ第一号ということになります。

【今後への期待】
本研究で、久米島に分布するガイコツパンダホヤに Clavelina ossipandae という学名がつきまし た。久米島を含めた南西諸島は、本州に比べてホヤ類の多様性調査が行われていません。南西諸島は サンゴ礁が豊かであり、生物多様性が高いことで知られているため、このような地域で調査を行うこ とで、さらなる新種が発見されることが大いに期待できます。変なホヤ、珍しいホヤを見つけた場合、 長谷川(長谷川 X アカウント:@hoyahoy11532152)までご連絡いただけますとありがたいです。 本研究の特筆すべき点に、SNS やメディアを通じて生物の情報が研究者のもとに届けられた結果、 新種の発見に繋がったということが挙げられます。今回の事例は、日本中の誰しもがホヤに限らず新 種の発見者になる可能性を示唆しています。しかし、SNS 上での生物情報の拡散による乱獲や生息地 の破壊は防がなければなりません。今後も生物多様性保全に努めながら、そこに棲む生物たちの多様 性を地道に明らかにしていく必要があります。

【参考図】

図1. ツツボヤ科内におけるガイコツパンダホヤ(Clavelina ossipandae)の系統的位置 ガイコツパン ダホヤはツツボヤ属(Clavelina)と Nephtheis(和名なし)からなるグループに含まれることが推定 された。

【用語解説】
*1 動物門 … リンネ式階層分類体系に基づく、動物を分類するカテゴリーの一つ。下位に綱、目、科、 属、種などさらに小さいカテゴリーを含む。脊索動物は一つの動物門である。亜門は必要に応じて、 門と綱の間に置かれるカテゴリー。尾索動物亜門は脊索動物門の一つ下の階層に位置する。
*2 オタマジャクシ型幼生 … ホヤ類の幼生つまり赤ちゃん。オタマジャクシのような形をしているこ とからオタマジャクシ型幼生と呼ばれる。
*3 DNA バーコード … 特定の遺伝子に着目した、生物種に特有の塩基配列のこと。データベース上の DNA バーコード情報と照らし合わせることで、塩基配列の情報のみから種を特定することが可能に なる。
*4 系統解析 … 生物のもつ形質や DNA などの遺伝物質の情報を用いて、生物の進化の道筋を推定す る方法。

【研究費】
本研究は、学術系クラウドファンディングサイト「academist(アカデミスト)」に掲載されたプ ロジェクト『動かない動物「ホヤ」、その生存戦略に迫る!』(代表者:長谷川尚弘)で集められた寄 付金及び JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム JPMJSP2119(代表者:長谷川尚弘)の支援を受け て実施されました。

 

【論文情報】

論文名:Graveyards of Giant Pandas at the Bottom of the Sea? A Strange-Looking New Species of Colonial Ascidians in the Genus Clavelina (Tunicata: Ascidiacea)(海底にパン ダの墓場?ツツボヤ属(脊索動物門ホヤ綱)の奇妙な新種の報告)
著者名:長谷川尚弘 1 、柁原 宏2(1北海道大学大学院理学院、2北海道大学大学院理学研究院)
雑誌名:Species Diversity(動物分類学の専門誌)
DOI :10.12782/specdiv.29.53
公表日 :2024 年 2 月 1 日(木)(オンライン公開)

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新種の発見はHTB北海道ニュースでも取り上げられました。
https://www.htb.co.jp/news/archives_24615.html
https://www.uhb.jp/news/single.html?id=40513

 

【お問い合わせ先】
北海道大学大学院理学研究院 教授 柁原 宏(かじはらひろし)
TEL 011-706-3524
メール kajihara[AT]eis.hokudai.ac.jp([AT]を@に変えてください)
URL https://www2.sci.hokudai.ac.jp/faculty/researcher/hiroshi-kajihara