アタマをつかった紫外線対策 ―メダカは脳下垂体で紫外線を感じ、身体を黒くして紫外線を防ぐ―
【概要】
北海道大学理学部の藤森千加助教(前東京大学所属)は、東京大学大気海洋研究所の神田真司准教授、岡山大学学術研究院医歯薬学域の佐藤恵太助教らとともに、東京大学大学院理学系研究科、京都大学、神戸薬科大学と共同で、メダカの脳下垂体のホルモン産生細胞が体外からのUV光を受けて、黒色素胞刺激ホルモン(MSH)を放出し、体表でのメラニン産生を促進することでUV光に対する防御を強化することを明らかにしました(図1)。
これまでも、眼以外の脳などの組織で光受容体遺伝子が発現していることは知られていましたが、本研究では、脳よりもさらに深い位置にある脳下垂体のホルモン産生細胞が機能的な光受容体を持ち、光を受容してホルモンを放出する仕組みを持つことを初めて明らかにしました。多くの先行研究では、それぞれの非視覚性光受容体が特定の波長の光を感じる意義は未解明でしたが、本研究成果は、脳下垂体でUV光(UV-A)を受容して体表のUV対策を強化する、という、波長の意味も説明された点などにおいてさまざまな新規性があります。この研究成果は、頭が比較的透明な生物では未知の光の利用経路が隠されていることを示唆し、今後の多くの発見に繋がることが期待されます。
【ポイント】
◆メダカにおいて、脳下垂体の黒色素胞刺激ホルモン産生細胞が太陽光に含まれるUV光を直接受容し、ホルモンを放出し、強い太陽光下では体色を黒くすることでUV光に対する防御を強めることがわかりました。
◆脳下垂体の内分泌細胞自体が光受容して直接ホルモン放出を引き起こす仕組みを持つことは今回初めて明らかになりました。
◆魚類等の頭蓋が比較的透明な動物は、我々が想像する以上に、光を眼以外で感受することで環境適応していることが示唆され、生物の多くのユニークな現象の発見に繋がることが期待されます。
図1:メダカで見つかった、脳下垂体の光受容によるUV防御機構
東京大学海洋研究所の承諾を得て掲載しております。
東京大学海洋研究所のプレスリリースはこちらから
【発表者・研究者等情報】
東京大学 大気海洋研究所
神田 真司 准教授 兼:大学院理学系研究科 生物科学専攻 准教授
藤森 千加 研究当時:特任研究員 (現:北海道大学 大学院理学研究院 助教)
東京大学 大学院理学系研究科
福田 彩華 研究当時:博士課程/日本学術振興会特別研究員
(現:自然科学研究機構 基礎生物学研究所 特任助教)
馬谷 千恵 研究当時:助教(現:東京農工大学 大学院農学研究院 助教)
岡山大学 学術研究院医歯薬学域
佐藤 恵太 助教
大内 淑代 教授
京都大学理学研究科
山下 高廣 講師
神戸薬科大学薬学部
竹内 敦子 研究当時:准教授(現:神戸常盤大学 特命教授)
【論文情報】
雑誌名:Science
題 名:Direct photoreception by pituitary endocrine cells regulates hormone release and pigmentation
著者名:Ayaka Fukuda, Keita Sato, Chika Fujimori, Takahiro Yamashita, Atsuko Takeuchi, Hideyo Ohuchi, Chie Umatani, Shinji Kanda*
DOI:10.1126/science.adj9687
URL:https://www.science.org/doi/10.1126/science.adj9687