小鳥の歌学習には発声練習量が重要である
行動神経学系の和多和宏准教授らのグループは早瀬晋さんを中心とした研究で、小鳥の歌学習に関する新たな発見をし、生物学分野のトップジャーナルの1つであるPLoS Biology誌に論文発表しました。この成果は北大のプレスリリースでも紹介されています。以下、和多先生による解説です。
人の言語学習と同様、ソングバードの発声学習において、その学習に適した時期、すなわち学習臨界期が存在することが知られていましたが、脳内のどこで、どのような分子が関わり、その臨界期が終了するのか分かっていませんでした。これを受け、我々は鳴禽類ソングバードの一種キンカチョウを用いて、自発的に生成される発声行動そのものが、発声学習臨界期間のコントロールに重要な役目をもつのではないかと考え、研究を行いました。
キンカチョウは、孵化後30~90日の約2カ月の間(学習臨界期)に1日数百回以上の発声練習を繰り返すことにより自分の歌を完成させ、完成した歌はその後一生涯維持されます。今回の研究ではこの学習臨界期が単に生まれてからの日数(日齢)で決まるのか、それとも発声練習行動の積み重ねにより制御されているのかを調べるため、学習臨界期中の自発的な発声練習を阻害する実験を行いました。その結果、発声練習を阻害した鳥は本来であれば学習ができなくなっているはずの成鳥になっても、幼鳥のような未熟な歌を出し、さらにその時点からでも発声学習ができることが明らかになりました。これは、発声学習臨界期が日齢依存によって終了するのではなく、発声経験の蓄積により制御されていることを意味します。さらに、我々は、この発声経験による学習能力の変化が脳内でどのような分子メカニズムで制御されているのかを調べました。脳内で読みだされている遺伝子群を次世代シークエンスにより全ゲノムレベルで調べた結果、脳内の発声学習に関わる歌神経核RAに着目し、ゲノムワイドな遺伝子発現解析を施行し、発声学習臨界期を通じて発現変動する1811遺伝子のうちわずか119個の遺伝子だけが、発声経験依存的に発現調節されていることを明らかにしました。逆に、これまで学習臨界期間中に日齢依存的に発現変動を示す多くの遺伝子群が同定されていましたが、それらは学習臨界期間の制御には無関係であることが示唆されました。
ソングバードの発声学習は、ヒトの言語や楽器、スポーツの習得と同様、感覚や知覚入力と運動機能出力の協調による「感覚運動学習」の一つの学習形態です。小鳥の歌学習と同様に、言語や楽器、スポーツなどの習得にも一般的学習しやすい学習適応期が存在すると考えられています。また,自発的な練習の反復により獲得される点も同じです。生後、「いつ」、「どのように」、「どれだけ」練習することが、脳内における遺伝子の読み出し方を変化させ、学習効率に影響を与えていくのか、さらなる研究を進めていく予定です。
発表論文: Hayase S., Wang H., Ohgushi E., Kobayashi M., Mori C., Horita H., Mineta K., Liu W., and Wada K. (2018) Vocal practice regulates singing activity–dependent genes underlying age-independent vocal learning in songbirds. PLOS Biology 16(9): e2006537.(https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.2006537)