Drosophila亜属のショウジョウバエは旧世界と新世界を行き来しつつ多様化を遂げた
多様性生物学系の加藤徹先生と大学院生である福田洋之さんのグループが、ショウジョウバエの進化に関する興味深い発見を論文発表しました。以下、筆頭著者である福田さんによる解説です。
ショウジョウバエは世界中に分布する小さな昆虫ですが、その中の代表的なグループの1つがショウジョウバエ (Drosophila) 属です。この属は約1200種が知られていますが、その多くはSophophora亜属、Siphlodora亜属もしくはDrosophila亜属に含まれます(図1)。ショウジョウバエの系統関係は古くから研究されてきた分野ですが、Drosophila亜属の系統関係に関しては過去の研究の多くが新大陸に生息する種に重点を置いていたこともあり、その系統関係や分布域の拡大の過程に関しては不明瞭な点が残っていました。
図1. ショウジョウバエ (Drosophila) 属の亜属とその代表的な種
そこで、本研究ではこれまで不明瞭だったDrosophila亜属の系統関係を明らかにし、Drosophila亜属がどのように世界中へ分布域を広げたのかを推定するために、旧大陸と新大陸に分布するDrosophila亜属を中心に45種を選び、これらを対象に3つの核遺伝子と2つのミトコンドリア遺伝子 (合計約3.5kb) の塩基配列を新たに決定し、分子系統樹を作成しました。さらに、この系統樹を用いて祖先種の分岐年代の推定を行い、現生種の分布域をもとに祖先種の分布域を推定しました。
本研究で得られた系統樹(図2)では、Drosophila亜属の祖先は漸新世初期に旧大陸の旧熱帯区から旧北区へ分布を広げ、中新世に複数の系統で5回にわたり旧大陸から新大陸へ分布を広げたことが推定されました。また、祖先が一度新大陸に渡ったもののその子孫の一部が旧大陸へ戻る、というイベントが少なくとも2回生じていたことも推定されました。分岐年代推定の結果を併せて考えると、この旧大陸―新大陸間の移動にはかつてシベリアとアラスカを繋げていたベーリング陸橋が使われていたであろうと考えられます。
図2. 系統樹から推定されたDrosophila亜属の分布の拡大の過程: 旧大陸から新大陸へ少なくとも5回、新大陸から旧大陸へ少なくとも2回、移住や分布の拡大があったと推定される。
これらの結果は「Drosophila亜属は主に旧世界から新世界へ移住する形で分布を広げ、それに続く子孫の多様化は複数の系統で起こった」という、形態形質に基づいて立てられた過去の仮説を支持するものでした。しかしながら、本研究によってDrosophila亜属のショウジョウバエがこれまで考えられていた以上に頻繁に、また最近になるまで新大陸―旧大陸間を移動していたことが明らかになりました。
発表論文: Izumitani H.F., Kusaka Y., Koshiikawa S., Toda M.J., and Katoh T. (2016) Phylogeography of the subgenus Drosophila (Diptera: Drosophilidae): Evolutionary history of faunal divergence between the Old and the New Worlds. PLoS ONE 11: e0160051. (doi:10.1371/journal.pone.0160051)