トゲネズミの性決定メカニズムの一端が明らかに
Y染色体を持たない哺乳類であるトゲネズミの研究で著名な黒岩麻里教授のグループが、その性決定機構の一端を明らかにして論文発表しました。以下、黒岩先生による解説です。
私たちヒトをはじめとする有胎盤哺乳類では、性染色体の組み合わせがXX だと女性(メス)、XYだと男性(オス)になります。これはY染色体にある性決定遺伝子、SRY遺伝子が男性(雄性)化を決めるからです。しかし、奄美大島に固有のアマミトゲネズミ(Tokudaia osimensis)は、哺乳類でありながらY染色体を失っており、オスもメスもX染色体を1本しかもちません(XO)。さらに、SRY遺伝子も失っているのですが、なぜかこの種ではオスが生まれてきます。Y染色体やSRY遺伝子がないのにどうやってオスが生まれてくるのか、その謎はよくわかっていませんでした。今回、私たちはSRY遺伝子以外のオス化に関わる遺伝子やホルモンが、アマミトゲネズミで働いていることを新たに見いだしました。私たちヒトのY染色体は多くの遺伝子を失っており、いつか消滅してしまうと考えられています。本研究の成果は、Y 染色体がなくても雄性を維持できる仕組みの一端を明らかにしたものです。
なお、この論文はこの春に大学院生命科学院を卒業して就職した当学科出身の大竹智史さんの修士課程における研究成果をまとめたもので、大竹さんご本人も大変喜んでいるとのことです。
大竹さん(左)と黒岩教授(右)。研究室の送別会にて。
発表論文: Otake T. and Kuroiwa A. (2016) Molecular mechanism of male differentiation is conserved in the SRY-absent mammal, Tokudaia osimensis. Scientific Reports 6: 32874. (http://www.nature.com/articles/srep32874)