魚の「左脳・右脳」に種を超えた遺伝子発現差を発見~ 4 魚種の比較から脳の左右差に関わる分子基盤に迫る ~
行動神経生物学系の竹内勇一准教授及び生殖発生生物学系の藤森千加助教は、岡山大学、国立遺伝学研究所と共同で、ゼブラフィッシュ、メダカ、イトヨ、シクリッドの 4 魚種の成魚を対象に、左脳と右脳で働く遺伝子の違いを比較しました。ヒトでは、言語や空間認知など、左右の脳が異なる役割を担うことが知られており、このような脳の左右差は脊椎動物に広くみられると考えられています。しかし魚類では、一部の脳領域を除いて、左右の脳でどのような遺伝子が異なって働くのか、また、その違いが種間で共通しているのかは、ほとんど分かっていませんでした。
そこで研究グループは、約 1~3 億年前に分岐した異なる系統を代表する 4 魚種について、終脳(学習・記憶・認知・感覚情報を統合する領域)と後脳(運動制御・姿勢調節・感覚情報を処理する領域)をそれぞれ左右に分け、RNA シーケンシング(RNA-seq)によって遺伝子発現を網羅的に解析しました。その結果、魚種を超えて同じ方向の左右差を示す五つの候補遺伝子を特定しました。なかでも、神経伝達物質の合成に関わる ddc と、神経回路形成に関わる ntn1b は、3 魚種で後脳の左側に高く発現し、残る 1 魚種でも同じ傾向を示しました。さらに、メダカの脳を組織学的に調べたところ、ddc を発現する細胞が、運動・感情・ストレス応答・注意などを調節する縫線核では右側より左側に多いことを見い出しました。これは、RNA-seq で見つかった分子レベルの左右差が、特定の神経核における細胞レベルの左右差として現れていることを示しています。
今回、進化的に広く保存された縫線核に新たな左右差を見い出したことで、脊椎動物における「左脳・右脳」の分子基盤を理解する新たな手がかりになることが期待されます。
本研究成果は、日本時間 2026 年 10 月 9 日(金)公開の iScience 誌にオンライン掲載されました。

本研究では、系統的に離れた 4 魚種を対象に、左脳と右脳に特化して発現する遺伝子を探索した。中央の DNA は、脳の左右差が進化的に保存された分子基盤に支えられていることを模式的に示す。(イラスト:安斉俊)
論文情報
論文名:Cross-species RNA sequencing identifies candidate lateralized genes in teleost brains
(種横断的 RNA シーケンシングにより同定された、真骨魚類における脳の左右差遺伝子)
著者名:竹内勇一 1、藤森千加 1、安齋賢 2、北野潤 3
(1北海道大学大学院理学研究院、2岡山大学環境生命自然科学学域、3国立遺伝学研究所)
雑誌名:iScience
URL:https://doi.org/10.1016/j.isci.2026.117858
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