竹内 勇一准教授/TAKEUCHI, Yuichi
ヒトの利き手に代表される「右利き」と「左利き」は、実はさまざまな動物でみられる現象です。利きがあることで、運動能力を最大限発揮して、生存上有利となると考えられています。しかし、右利きと左利きの脳神経系の違いや、利きの発達過程、どのような遺伝子や分子に調節されるか、進化的にいつ成立したかなど、いまだに本質的な謎が残されています。わたしは利きが顕著なことで知られるアフリカの鱗食性シクリッドを用いて、神経科学、ゲノミクス、行動学、生態学、進化学といった多角的アプローチから、右利きと左利きを司るメカニズムについて研究を行っています。
図1 利き手でないと、精密に素早く描くことはできない
図2 鱗食性シクリッドPerissodus microlepis
図3 鱗食魚の右利きは獲物の右から、左利きは左側から襲いかかり、ウロコを剥がして摂食する
図4 鱗食魚の脳の外観(上)、脳を透明化して神経トレーサーでラベルした後脳の網様体脊髄路ニューロン群(下)
動物たちが示す行動とそれを制御する脳神経の関係は、多くの人々の関心を引き続けてきました。しかしこれまではツールの問題から、いわゆるモデル動物の比較的単純な行動でしか、そのメカニズムに迫ることはできませんでした。現在は分子生物学やゲノミクスの飛躍的な進歩により、非モデル動物の精巧な行動においても、研究対象とすることができるようになってきています。ゲノム・ニューロンから生態・進化まで、分野の壁を越えて研究するのは、実にエキサイティングです。動物たちの複雑な行動が生息環境でどのような機能を持ち、それらが脳の中でどのように司られているのか、一緒に解き明かしましょう。
参考文献
Developmental process of a pronounced laterality in the scale-eating cichlid fish Perissodus microlepis in Lake Tanganyika. Takeuchi Y. Zool. Sci. 40(2):160-167 (2023). DOI: 10.2108/zs220078
Experience-dependent learning of behavioral laterality in the scale-eating cichlid Perissodus microlepis occurs during the early developmental stage. Takeuchi Y., Higuchi Y., Ikeya K., Tagami M., Oda Y. Sci. Rep. 12: 723. (2022) DOI: 10.1038/s41598-021-04588-8
Specialized movement and laterality of fin-biting behaviour in Genyochromis mento in Lake Malawi. Takeuchi Y., Hata H., Maruyama A., Yamada T., Nishikaw T., Fukui M., Zatha R., Rusuwa B., Oda Y. J. Exp. Biol. 222: jeb191676. (2019) DOI: 10.1242/jeb.191676
Lateralized expression of left-right axis formation genes is shared by adult brains of lefty and righty scale-eating cichlids. Takeuchi Y., Ishikawa A., Oda Y., Kitano J. Comp. Biochem. Physiol. D. 28: 99-106. (2018) DOI: 10.1016/j.cbd.2018.07.002
Lateralized scale-eating behaviour of cichlid is acquired by learning to use the naturally stronger side. Takeuchi Y., Oda Y. Sci. Rep. 7: 8984. (2017) DOI: 10.1038/s41598-017-09342-7
左右性
「利き手」や「利き足」などのように、行動において左右どちらかの四肢を好んで使ったり、どちらか一方向から行動したりする現象のことです。一般に利き側で行動した方が、結果として得られるパフォーマンス(たとえば成績)や反応速度が高いとされます。
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