教員

フィールドワークとゲノムサイエンスの融合

早川 卓志助教/HAYAKAWA, Takashi

生態遺伝学系
研究分野
ゲノム科学、分子生態学、進化生物学
研究テーマ
野生動物の行動・生態・進化の背景にある遺伝的なメカニズムの解明

「フィールドワーク」と「ゲノムサイエンス」の両方の手法をもちいて、野生動物の行動・生態・進化の背景にある遺伝的なメカニズムを探っています。ゲノムの視点で野生動物を研究する新しい研究スタイルの確立を目指しています。

ゲノムとはそれぞれの生物がもっている遺伝子情報のすべてです。DNAという分子に刻まれています。ゲノムDNAを調べることは、その生物の行動、生態、進化などさまざまなことを知る手がかりとなります。実験室を飛び出して、野生動物が生息するフィールドに出かけ、行動観察や生態調査をしながらゲノムDNAを採取しています。

写真は屋久島のニホンザルが落としていった糞便から、綿棒を使ってDNAを採取している様子です。なるべく動物個体や集団に影響のない非侵襲的な手法で採取するのも大切です。

私は特に味覚の進化に注目しています。脊椎動物の甘味・旨味感覚はTAS1R、苦味感覚はTAS2Rという舌の上皮などの口腔内に発現している受容体タンパク質によって感じられています。これらをコードする『味覚受容体遺伝子』が、動物の食性に応じてどう進化しているかを調べています。たとえばヒトを含む植物食性の霊長類や、ユーカリの葉を専門に食べるコアラでは、TAS2R遺伝子の数を増やして植物に含まれる毒を認識するよう、分子レベルで進化(分子進化)していることを発見しました。

もうひとつの注目しているのは腸内細菌です。動物の消化管には無数の腸内細菌が共生しており、食べ物の消化を助けています。腸内細菌の活動は、消化のみならず生理、疾患、神経活動などにも影響を与えています。野生動物の行動や生態を知る上でも、腸内細菌の理解は不可欠です。次世代シークエンシングというDNAを網羅的に調べる技術を応用して、野生動物の腸内細菌叢を調べています。たとえば、屋久島で野生のニホンザルの糞便に含まれている腸内細菌由来のDNAを調べ、特徴を明らかにしました。四季豊かな日本に生息するニホンザルは季節によって多様な食物を食べています。食物の季節変化と腸内細菌の関係など、多くの新しい発見が待っています。

メッセージ

チンパンジーはなぜたくさんの森の植物を食べことができるのだろうか。コアラはなぜ一日中眠っているのだろうか。のんびりしたスローロリスはどうして捕食者の多い森で生きていけるのだろうか。そんな動物園に行けば誰もが思う簡単な疑問でも、理由が解明されてない謎がたくさんあります。野生動物の観察と、DNAなどの最先端の技術を組み合わせてそんな謎を解明し、新しいサイエンスを創出する研究の楽しさを、ぜひともに共有することができればと思います。

参考文献

  • Takashi Hayakawa, Tohru Sugawara, Yasuhiro Go, Toshifumi Udono, Hirohisa Hirai, Hiroo Imai. Eco-Geographical Diversification of Bitter Taste Receptor Genes (TAS2Rs) among Subspecies of Chimpanzees (Pan troglodytes). PLOS ONE 7: e43277 (2012).
  • Takashi Hayakawa, Nami Suzuki-Hashido, Atsushi Matsui, Yasuhiro Go. Frequent expansions of the bitter taste receptor gene repertoire during evolution of mammals in the Euarchontoglires clade. Molecular Biology and Evolution 31: 2018-2031 (2014).
  • Takashi Hayakawa. Taste of chimpanzee foods. Mahale Chimpanzees: 50 Years of Research. (Michio Nakamura, Kazuhiko Hosaka, Noriko Itoh, Koichiro Zamma. eds.). pp 246-258. Cambridge University Press (2015).
  • Takashi Hayakawa, Akiko Sawada, Akifumi S. Tanabe, Shinji Fukuda, Takushi Kishida, Yosuke Kurihara, Kei Matsushima, Jie Liu, Etienne‑Francois Akomo‑Okoue, Waleska Gravena, Makoto Kashima, Mariko Suzuki, Kohmei Kadowaki, Takafumi Suzumura, Eiji Inoue, Hideki Sugiura, Goro Hanya, Kiyokazu Agata. Improving the standards for gut microbiome analysis of fecal samples: insights from the field biology of Japanese macaques on Yakushima Island. Primates 59: 423-436 (2018).
  • 早川卓志, 今井啓雄. チンパンジーにおける苦味感覚の地域差と進化. 生物の科学 遺伝 67: 418-424 (2013).
  • 早川卓志. 霊長類分子生態学における次世代シークエンシング.霊長類研究 34: 65-78 (2018).
  • 早川卓志. 樹の上で進化した味覚――北半球の霊長類,南半球のコアラ. 科学 88: 1123-1124 (2018).
  • 早川卓志. コアラはフクログマ? フクロザル? ~オーストラリアの有袋類の多様性~ モンキー 3:110-111. (2019).
  • 『世界で一番美しいサルの図鑑』京都大学霊長類研究所 編(分担執筆)X-Knowledge (2017).
  • 『霊長類図鑑―サルを知ることはヒトを知ること』公益財団法人日本モンキーセンター 編(分担執筆)京都通信社 (2018).

ゲノム解析による野生哺乳類の行動

閉じる

生態

閉じる

進化の研究

閉じる

保全ゲノム

閉じる

動物福祉

閉じる

ウェブサイト

北海道大学 大学院地球環境科学研究院 環境生物科学部門 生態遺伝学分野 早川研究室

所属研究院

地球環境科学研究院
環境生物科学部門
生態遺伝学分野

担当大学院

環境科学院
生物圏科学専攻
生態遺伝学コース

研究トピックス
お知らせ
連絡先

地球環境科学研究院C-807号室
Email: hayatak [atmark] ees.hokudai.ac.jp
TEL: 011-706-4524

オフィスアワー

講義や実習について質問がある場合、また研究室の見学を希望する場合に、教員を直接訪問できます。


訪問受入時間: 随時


事前連絡があればオフィスアワー日時以外も可能

教員一覧